2022年11月02日
男の話・8
浜野は、解りやすい少年の挑発に乗るほど馬鹿な男では無かったが
そう思うのと、身体は、また別の話のようだった。
少年のワイシャツの胸元を掴み、引き寄せ、ソファへと引き上げると上に跨り
『使いモンになるかどうか試してやるよっ』などと怒鳴り、
鼻息も荒く、少年のズボンに手を掛け脱がそうとする。
『………本番は、……別料金なんですけど……』
『ハァ?…お、お前……、自分の立場が解ってねぇんじゃないのか……』
『解ってますよ?』
いきり立つ浜野を宥めるように、少年は手を伸ばし、浜野の頬にそっと触れる。
……見つめて、一度目を伏せ、また目を開け、はにかんでみせるなど……、出来すぎた仕草だったが
すでに浜野にはそれを揶揄する余裕もなかった。
『………今から、……お兄さんに抱かれちゃうんでしょ?
……………あんまり、痛いのは、………や、ですよ?』
実のところ、事の次第は、浜野からではなく、
部屋にいたもう一人の男から聞いたものだった。
『……結局、兄貴が楽しんだだけっすよ。……俺に回してくれれば良いのに……
いやでも、横で見ててもエロいガキでしたよ。こう、匂い立つっていうか…
ありゃ、プロですよ。絶対。どっかの、ヤバいですもん、マジ。
あー。名前?………あれ、き、聞かなかったのかな……
終わったら、すす〜って居なくなっちゃって……、あれ、夢か、てな位で』
男と入れ違いで事務所を出て行ったという少年。
ソファでは浜野が後始末をしながら、へへへと、照れ笑いを浮かべているだけだった。
posted by 白黒ぼたん at 23:27
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2022年11月05日
男の話・9
「………で?」
黒川は黙って男の話を聞いていたのだが、話が途切れたところで、ようやく息をつく。
グラスに口を付けるも、それはとうに空で、氷も溶けたグラスに、ボトルの洋酒を注ぐ。
「………いや、お前のトコの子なのかなって………」
「…名前も何も聞かなかったんだろ? そんなの、解るかよ」
男は少年の姿を見ていないし、名前さえ知らないのだ。
確かに、それでは、素性を探りようもない。
少年の面差しで客引きで、ヤクザの事務所に連れて行かれても平然としていて
脅しすかしも軽く流して、条件を付けては、若い舎弟を手玉にサックリ抜いて…
…そんな人物に思い当たるのは、…そう幾人もいる筈はないのだが
…………解らないものは、解らない。そうとしか、言いようが無い。
「……まあ、そりゃそうだよな。……いや、お前のトコの子なんだったら、その…
厳重注意だな……と。ウチの縄張りで勝手に遊ばれちゃ…困る」
「………確かに、な」
「…お前んトコの子じゃないなら、……探して、スカウトする」
男の言葉に黒川は笑い、「その時には俺にも声を掛けろよ」などと言った。
一通り話が終わり男が帰った後も、黒川は暫く事務所に残り酒を飲んでいた。
男の話に出てきた少年は、イツキなのだろうかと……思いつつ……
そうやって思い当たってしまう時点で、それはビンゴなのだと解っていた。
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posted by 白黒ぼたん at 00:05
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2022年11月07日
男の話・最終話
黒川は事務所で一人、少し酔いの回った頭で考え事をしていた。
もし仮に、男の話に出て来た少年がイツキなのだとしたら、……その理由は何なのだろう。
昔の仕事を思い出し、遊んでみたくなったのか…
ちょっとした小遣い稼ぎのつもりなのか…。
遊びもセックスも、それはまあ、別に構わない。
今更、操を立てろなどと言うつもりはない。それは、良いのだが
理由が解らないのが、どうにも、嫌なのだ。
「……遊びたいのか?…そんなに今の暮らしが不満か?つまらないのか?
……金か?……金を持ってどうする? ホストにでも貢いでいるのか?」
グラスに酒を注ぎ足し、独言てみても、答えが出るはずもない。
本人に問いただしてみるしか無いのだろうが、冷静に、それが出来る気配もない。
黒川にとって、イツキは大事で愛おしいと、一応認知はしているのだが
それが一人の人間として、ちゃんと自立した男として、接しているかと言えば…疑問で
どうしたってまだ自分の手の内、ペットのその先、ぐらいの感覚なのだろう。
「……クソ。面倒臭い……。
なんであいつの事で、俺がこんなに…考え込んでいるんだ」
それでもこの話にきちんと答えを出さなければいけないと
思うだけ、黒川も、大分マシになったのだ。
posted by 白黒ぼたん at 23:31
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2022年11月08日
エンドロール
よくよく考えてみると
イツキが石鹸屋の出張から帰ってから、数週間、イツキと会話らしい会話は無かった。
留守中、お互い、多少後ろめたい出来事があったからだろうか。
…避けている、程、露骨では無いが、
…まあ、実際仕事が忙しく時間が合わなかったこともあるのだが。
黒川が起きる頃にはイツキは出かけているし
黒川が帰る頃には、イツキは巣箱で休んでいる。
たまにキッチンで顔を合わせると、特に問題も無さそうに微笑み
『お鍋に煮物、作ってあるよ』など、言う。
そんな事ぐらいで、関係は良好なのだと思い込んでしまうのもアレだが
わざわざ面倒臭い問題を掘り起こす必要もないと、違和感を誤魔化してきた。
まあ、この二人の問題は
正面切って話し合ったからと言って
上手く解決される保証はないし
どの形に落ち着けば正解なのかも解らない。
成り行きで良いのではないかと黒川が思うのは、年の功というやつで
まだ若いイツキにはそれ自体が不安の種であることに、黒川は気付かない。
真夜中。
事務所で一人酒をしていた黒川は、やや悪酔状態で部屋に帰る。
珍しく部屋は明るく、リビングではイツキが、テレビを見ていた。
「…あ、おかえりなさい。マサヤ」
「………めずらしいな、この時間まで起きているのも……」
「なんか、寝付けなくて。テレビ付けたら、映画、やってて……」
その映画も丁度見終わったところで。
画面にはエンドロールが流れていた。
posted by 白黒ぼたん at 16:48
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2022年11月09日
面白い話
「…じゃ、俺、寝るね。おやすみ……」
深夜の映画も終わり、後はよく解らない気の抜けた通販番組になったところで
イツキはソファから立ち上がる。
キッチンで水を飲んでいた黒川はちらりとそちらを見遣る。
「……イツキ」
「ん?」
「…俺に、何か話す事があるだろう?」
「無いよ」
そう言って、巣箱に入ろうとするイツキを、黒川は手で遮る。
キッチンの入り口で肩を抱くように身体を寄せる。
「……マサヤ、酔ってる?」
「…そうだな。……面白い話があるぜ?」
「………俺、もう、眠いんだけど……」
黒川は片手をひょいと伸ばし、キッチンの棚にあった酒のボトルを取り
もう片方の手で、イツキの手を引き、リビングのソファに連れて行く。
ソファに戻されたイツキは小さくため息を付き、大人しく、それに従う。
グラスを二つ並べ、酒を注ぐ。
黒川はそれを一気に飲み干す。
実際、この男が、酒の力を借りることは……稀だった。
「……今日、事務所に知り合いの男が来てな……
そいつの組事務所で…おととい、……連れ込んだガキが……変で………」
少しゆっくりとした口調で話すのは、酒によっているせいなのか。
イツキはと言えば、並んで座る黒川の肩にもたれ、静かに酒を飲み
黒川の話を聞いていた。
posted by 白黒ぼたん at 23:44
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2022年11月10日
シリアスな話
「………道端で客取って、ヤクザの事務所に連れて行かれて…
名乗る代わりにヤらせて済ませる……なんて、ヤバい奴だよなぁ……」
黒川は男から聞いた話をざっとイツキに話す。
隣に座るイツキは顔色も変えずにそれを聞き、ふぅんと言って、グラスの酒を飲む。
目を合わせないのは後ろめたい事があるのか、それとも、何も感じる事が無いのか。
黒川はソファの背もたれに肩肘を乗せ、斜めに、イツキと向かい合う。
「………お前か?」
単刀直入に黒川が尋ねる。
イツキはチラリと横目で黒川を見て、すぐに視線を逸らせて
小さく、笑った気がした。
「………どうだろう…」
「どうだろうって、…何だよ。ヤった事も覚えていないのか」
「…そうしたんだったらさ……、何でだと思う?………わざわざ他所でさ、…仕事みたいなこと、したと思う?」
「そりゃぁ……、……ヤルのが好きか、……金が欲しいのか………」
イツキも身体を倒し、反対側の肘掛けにもたれ掛かる。
イツキと黒川はそう広くはないソファの端と端に構え、真ん中で、脚が重なり合う。
「お金。…欲しいよね。………俺さ、一人で暮らしたくって……」
「……ここを出たいなら…勝手にしろよ……」
「うん。……でも、それにはお金が要るよね……」
シリアスな話をしている…風にはお互い見せたくなくて
重なった脚を軽く動かし、小さな蹴りを入れて見せる。
黒川は、喉が渇き
酒が切れて来たのではないかと、慌てる。
posted by 白黒ぼたん at 22:59
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2022年11月12日
小さな声
黒川はボトルの酒をグラスに注ぐ。
…飲み過ぎだろうと…、足を軽く小突いたのは、イツキの方だった。
「……なんで俺がココを出たいのか、とか……気にならないの?」
「知るかよ。……ああ、外に居た方が自由に遊べるもんなぁ…」
いつもの軽口に、また、イツキは黒川を蹴飛ばす。
黒川は鼻で笑いグラスを傾ける。
いくらアルコールを喉に流しても、渇きは癒えない。
ヒリヒリと痛むのは、渇きのせいではないのか。
イツキが、自分の元から離れたい理由など、思い当たる事が多すぎる。
「俺から、離れたいのか」
黒川の声は独り言か、ただ自分を納得させるためだったのか、小さな小さな声だったが
イツキにはちゃんと聞こえていた。
酒に酔っているのは言え、黒川のこんな声は聞いたことが無かった。
「………マサヤは、……解って無いよね」
ため息まじりにイツキはそう呟きながら、ソファから身体をズラし床にペタリと座る。
自分のグラスに手を伸ばし、酒を一口飲むと、今度は黒川の傍に身体を寄せる。
頭を傾げると丁度、黒川の手に当たる。
黒川のてがイツキの髪の毛をくしゃりとするのは、条件反射のようなものだ。
「…マサヤ。俺がどれだけ、マサヤを好きか、知らないでしょ?」
posted by 白黒ぼたん at 00:02
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2022年11月14日
イツキの話
イツキの髪の毛を指先に絡めたまま、黒川の手が止まる。
自分を好きだと言うイツキの顔を見てやろうと思ったが、イツキは顔を上げない。
「……好きなら、なんで別れるんだよ」
「……だから、解ってないって言うんだよ、……マサヤは」
そう言って、お互い少し黙りこくる。
もっとも、触っていた髪の毛を掴んで引き倒し、
『…ふざけた事を言うな』と激昂しないだけ、マシだった。
黒川も多少は人の話を聞くようになったのか、ただ単純に酒に酔っている為なのか。
イツキは黒川に背を向けたまま、テーブルのグラスに手を伸ばす。
今度はイツキが酒の力を借りたいのだろうか、それを飲み干すと、ふうと一息付いた。
「………別れる、なんて言ってないでしょ?
マサヤのこと、好きだから、ちょっと…離れたいなって…思っただけ。
一緒に暮らしてるとさ、色々、知りたくないことまで知っちゃうでしょ?
女の人と何したとか、どうしたとか、別に、いいんだけどさ…マサヤも仕事だしさ。
今更、ヤルとかヤラレルとかそんなの、大した問題でもないの、知ってるけど。
でも、そんな事に、いちいち気がついて、気になって、嫌な気分になる自分が、嫌。
俺……
なんでこんなに、マサヤのこと、好きになっちゃったんだろ……
オカシイでしょ? ずっとマサヤの事、考えてるなんてさ。気持ち悪いでしょ?」
そこまで話して、ようやく首を傾げ、イツキは小さく黒川を見上げる。
少し泣いている様にも見えるが、キッと口の端を結ぶと、微笑んでいるようにも見えた。
posted by 白黒ぼたん at 19:56
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2022年11月16日
取り敢えず
「…気持ち悪くは…ないだろう、別に」
「気持ち悪いよ。女じゃあるまいし。マサヤだって、俺にアレコレ詮索されたく無いでしょ?
昨日は誰とシて来たの?とか、いちいち、聞かれたい?」
「………いや」
イツキの話を聞き、その言い分はもっともだと黒川も同意する。
…だからと言って、引っ越しをすれば解決する問題だとも思えないが
「…………ハァ」
イツキは肩を揺らし、盛大に溜め息をつく。
確かに自分でも、この方法が最善だとは思っていないのだ。
それでも、どうして良いのか解らず
解らず、と、悩む自分を嫌悪し、さらに追い詰められてしまったようだ。
「………馬鹿なやつ…」
つい、黒川が漏らした言葉にイツキは反応し、むっとした顔をそちらに向ける。
「そうだね。馬鹿だよ。ハイハイ」
「解ったから、もう、そう拗ねるな。……イツキ」
黒川は手を伸ばし、イツキの腕を掴み
引き上げ、ソファの自分の隣に座らせる。
イツキはまだ俯き、不貞腐れた様子だったが
それごと抱き締め腕の中にすっぽりと納める。
「…取り敢えず、俺の傍にいろ。もうちょっと、良い手を考えてやるから。
………気持ち悪い程、惚れていても……まあ、良いだろう?」
posted by 白黒ぼたん at 23:31
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2022年11月19日
詫び
「……良い手って、……どんなの?」
「…そのうち考える。とにかく……」
黒川の腕の中でイツキは顔の向きを変え、二人はようやく間近に見つめ合う。
一度、唇を合わせ、少し離れてから、再び唇を合わせる。
「とにかく、俺の傍にいろ」
イツキを不安がらせない「良い手」とは何か、そんなものは知らない。
ああ、松田が何か言っていたかなと…と黒川は思い、少し難しい顔をする。
イツキは、そんな黒川の顔に手をやり、キスをせがむ様に力を込める。
それを黒川が拒める筈もない。
唇を深く重ね、シャツを脱ぎかけて、ソファから転げ落ちそうになり
そのまま手を引いて、寝室へと向かう。
ベッドに入り、またキスから始まり、服を脱ぎ、肌を重ねる。
「………マサヤ」
「うん?」
イツキは黒川の背中に腕を回し抱き付く。
お互いの中心は酷く熱く、どれだけ相手を欲しがっているのかが解った。
「……勝手なこと…して、………ごめんなさい」
消え入りそうな小さな声で、イツキがそう言う。
黒川は「ああ」とだけ言った。
posted by 白黒ぼたん at 23:57
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2022年11月21日
雪山
明け方にイツキは目を覚ます。
隣には黒川が眠っている。
お互い、裸だ。事が終わり、そのまま寝入ってしまったのだ。
所々濡れているシーツを避け、イツキは少し身体をずらす。
掛け布団を大きく引き、自分と黒川を頭からすっぽりと覆い被す。
素肌の温もりが心地良い。
雪山で遭難したら、こんな気分だろうかと、イツキは思い
雪山なんて行ったことが無いけれど…と、思い
でも、昨日まではまるで遭難していたみたいだな、と思う。
目の前の黒川にぎゅっとしがみつくと、黒川が目を覚ました。
「………ん、……何だ」
黒川は半分寝ぼけた声で呟く。
体勢を変えようと、身体を起こしかけるのだが
すぐにイツキに止められ、おまけに、恨みがましい目で睨まれる。
「……何だ?」
「…何だじゃないよ。……もっとちゃんと、ぎゅってしなくちゃ、駄目じゃん」
「……あ、…ああ」
良く解らない内に黒川は叱られ
イツキの言う通り、イツキを抱き締めた。
posted by 白黒ぼたん at 23:46
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2022年11月24日
憑き物
「イツキくん、こことか、ど?
駅から徒歩25分の築30年だけどギリギリ予算内。
近くにコンビニもあるんだって。それ、重要だよねぇ」
仕事の合間にミカが不動産のチラシを広げる。
少し前から、イツキが今の部屋を出たいと知り、あれこれ気にしていたようだ。
本当は自分ももう少し、良い条件の物件があればと探している。
話の流れで言った、イツキと一緒に暮らす、も、あながち冗談では無いのだろう。
イツキは一応チラシを眺め、……この条件でもやはりこの家賃なのだなと、思い
手に持っていた紙コップの温かいコーヒーを啜り、目の前のミカに、ニコリと微笑む。
「………ありがとうございます。…でも、俺、なんか……、別に良くなっちゃったかも…」
「ええ?イツキくん、自立計画はどうしちゃったのよ?」
「…色々考えてたんですけど…、やっぱり大変だし。……もう、いいかなって」
ミカはイツキの言葉に目を丸くする。
確かに、つい数日前までは思い悩んだ顔をし、溜め息ばかり付いていたイツキだったが
今日はまるで憑き物でも落ちたように、晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。
「…俺、考え過ぎちゃうんですよね。何でも、ぐるぐる……
それで、もう、この場所には居たく無いって、そればっかり考えちゃったんだけど
何か、………落ち着きました。……すとん、て」
「そうなのー?」
「多分、自分が思う以上に、イロイロ、………悪くはないのかなって……」
そう言って笑うイツキに、ミカは、それなら良いけどと安堵する一方
楽しいイベントが終わってしまったような気もして、少し、ガッカリするのだった。
posted by 白黒ぼたん at 15:06
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2022年11月26日
誤作動
少し前のことを思い出した。
イツキを「仕事」にやっていた頃だ。
自分で言うのもなんだが、まああの頃は酷かった。
一晩で何人もの相手をさせることもあったし、その内容も……
……痛みを与えて喜ぶような輩もいれば、
イツキの声が枯れるまで泣き叫ばせる様な奴もいる。
終わる頃には意識も朦朧。酒も入り、上も下も汚い状態だったが
……身体の欲はなかなか収まらず。
迎えに行った俺や、佐野や、……誰も居ない時にはそれこそ、誰彼構わず
求め、さらに自分を追い込んでいた。
混乱を抑える方法は、これしか知らないらしい。
より強い力で捩じ伏せない限り、暴走は止まらないのか。
状況が変わり、イツキが「仕事」で酷い目に遭うことは無くなったが
それでも何か問題が起きたり、一人思い悩んだりすると
どうも、自分を抑え込むために、それ以上の強い力を欲しがるようなきらいがある。
状況を誤魔化しているのか暴走しているのか、バグや誤作動といった類か。
自分の身体を滅茶苦茶に扱い、壊して、ようやく一つ山を越すことが出来るようだ。
馬鹿な奴だと、黒川は手元の日本酒のグラスを煽り、ふんと鼻息を鳴らすのだが
そんな方法しか与えてやらなかったのは、黒川自身なのだ。
posted by 白黒ぼたん at 23:43
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2022年11月29日
有耶無耶
イツキは馬鹿で誤作動ばかり。
それは解っているとしても、駄目なものは駄目で。
先日は話しを聞いている内に有耶無耶になってしまったが
きちんと叱らないといけないと、黒川は思っていた。
「…おつかれさまぁ。遅くなってごめんなさい。
やだ、マサヤ、もう飲んでる?しかも日本酒?いいなぁ!」
待ち合わせの寿司屋に遅れてやって来たイツキはカウンターの黒川の隣に座り
ビールを注文し、すぐに黒川の日本酒に気付き、羨ましそうに眺める。
出された熱々のおしぼりを、あつい、あつい、と手の中で弾ませ
壁に貼られた「今日のオススメ」をぐるりと見渡し、危うく椅子から落ちそうになる。
「…落ち着けよ、イツキ。
ああ、大将、盛合せと厚焼き玉子。それとお猪口をもう一つ」
「マサヤ、すごい。何で俺が欲しいもの、解ったの?」
目を丸くするイツキを黒川は鼻で笑い
説教はもう少し後でも良いかと思った。
posted by 白黒ぼたん at 22:51
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