2023年03月05日

些細なこと







イツキが気になっているのは、ごくごく、些細なことだった。
おそらく別の人間からすれば、気付かない様なこと。

ただ、ハーバルの店舗の付近に見慣れない黒塗りの高級車が停まっていたこと。
時折、顔を出す男が、どうやらその筋の男のようなこと。

特別な何かが起こったわけでもないのだが、こればかりはイツキの勘というか習性で
さんざん身近に感じて来た、いわゆる、ヤバい連中の気配がするのだ。

最初は、黒川が人を遣って自分を見張っているのかも知れないと思った。

もしくは、自分が何か目を付けられたのか……、ハーバルの店舗にトラブルがあるのか…
とにかく、何かあるのか

それとも、全て気のせいで、何も気にするような事は無いのか。





「おはよ、横山さん」
「おはようございます、イツキてんちょ。本社からFAX来てますよ」
「在庫かな? 了解」


その日は遅番のイツキが店舗に入る。
パートの横山とはすっかり打ち解けて来た。
彼女は別に、何も、異変は感じていないようだ。
強いて言えば、ちょこちょこと顔を出す隣の三浦が気掛かりで
顔を出さなければ出さないで、また気になり、それが煩わしいようだった。

横山は時計を見て、外の景色を眺め、軽く、首を傾げる。

「今日の午後は……珈琲淹れて持って来てやるよって、言ってたんですけどね」
「夕方じゃない? あの人、夕方しか働いてないでしょ」


イツキは本社からのFAXに目を通しながら


まあ多分、何も、問題は起きていないのだよなと………思った。






posted by 白黒ぼたん at 00:54 | TrackBack(0) | 日記

2023年03月09日

来客







ハーバルの店舗には、そう、来客は多くない。
新しい化粧品屋なのかと、近所の女性が顔を覗かせたり
普段は通販を利用している客が、実際の商品を見にやって来たり。

もっぱらの仕事は、会社全体の商品の管理だった。
社長は、ゆくゆくは、今の本社を製造のみの拠点にし
実際の営業は都内に移そうかと考えていた。

まあ、そんな訳なので、来客が少なくとも結構忙しいのだ。
ここに来るまでパソコンなど触ったことも無かったイツキだが
どうにか基礎的な事は覚え、昔ながらの紙の台帳からデータを移す作業を
画面に顔を近づけながら、必死に、こなしていた。



「そんなに顔、近付けてたら、目、悪くなっちゃうよ」

するりと店内に入って来た男がそう声を掛けるまで、イツキは気が付かなかった。
驚き、顔を上げると、そこには松田の姿があった。


「あ。……こんにちわ…」
「今日は、一人?いつものおばさんは?」
「横山さんは今日はお休みです。松田さんは、何で…」
「何では無いでしょ。ふふ。俺だってココの関係者でしょ」


商品ケースを兼ねたカウンターに肘を付き、その奥のパソコンデスクに向かうイツキに
松田はにこやかに微笑む。




イツキが、何となく……気になる事がある、のは



まだ、松田の知らない話。





posted by 白黒ぼたん at 23:47 | TrackBack(0) | 日記

2023年03月14日

憂鬱







「…今日、ご飯、行こ?」
「……ここ、18時まで仕事ですよ?」
「あと2時間?待ってるよ」


そう言って松田は笑う。
イツキは、食事が食事だけでは済まない事は解っていたので、あまり乗り気ではなかったが
聞いてみたい話は、ある。

その迷いはどうやら瞳に映るようで

松田も一瞬、押すか下がるか迷ったのだが…イツキの空気感を察し。押す。



「隣に、お茶が出来るとこ、あったよね。そこで待ってるからさ」
「……………カフェみうら、ですか……。そこ、……やっていないかも、ですよ……」
「そうなの?……じゃあ、別のところででも……」


そんな話をしている最中に

またハーバルの扉が開く。

次の来客は、三浦だった。


白を基調とした明るい店内。
ほぼ女性向けの、自然派化粧品。穏やかで優しい香りの漂う店内に
男が3人。



「イツキくん、こんちわ。………あれ、お客さん? いらっしゃいませ」

三浦は、自分の店でも無いくせに、松田に向かって微笑み
どうぞ店内をご覧くださいという風に、手を広げて差し出して見せる。

松田は、当然、三浦を怪しみ
少し険しい表情を浮かべる。



「ああ、ええと。…。お客さまでは無いんです。ウチの会社の…関係の人です。
松田さん、この方、三浦さんです。隣のカフェのオーナーです」




イツキはざっと説明をしながら


どうしていつも物事が面倒臭い方に向かうのかと、少し、憂鬱になった。







posted by 白黒ぼたん at 23:31 | TrackBack(0) | 日記

2023年03月19日

三浦と松田








「……向こうの、商工会の連中が、またイベント開くようだよ」
「ああ、オーガニックフェスタみたいなやつですね。ウチは参加するのかな…」
「するでしょ。地元特産品使って、一つずつ新商品出すって…」

「あ、イツキくん。この前の白菜漬けどうだった?塩っぱくなかった?」



レジのカウンターの内側で、イツキと松田が仕事の話をしている途中に、三浦がどうでもよい話を振ってくる。
三浦は店内の隅に置かれた半分飾りのような小さなテーブルセットにいて
持参したポットからコーヒーを注いでいた。


「はい、コーヒー。今日はブラジル豆ね。あなたもどうぞ」
「……どうも」
「白菜漬けね、ちょっと水洗いした方がいいみたいよ」
「……………はぁ」


カップを3つ用意していたのは、パートの横山の分だったのだろう。
とにかく三浦は、イツキと松田の前にコーヒーを置くと、また椅子に戻り
本当にただの暇つぶしという風に、これまた持参したスポーツ新聞を眺める。



松田は、不信感ありありの目で三浦を眺め、そのままの顔をイツキに向ける。
その、言いたい事はイツキにも伝わったようで、イツキは小さくため息をつく。



「三浦さん、すみません。……ちょっと、仕事の話があるので……」
「ん?ああ、俺のことは気にしないでいいから」


三浦は軽く笑い、大丈夫、という風にひらひらと手を振ってみせ

結局それから小一時間ほど、カフェの常連客が店を開けろと呼びに来るまで、ハーバルに居たのだった。





「………何?あれ? イツキくん、もうあんなの引っ掛けたの?」
「違います。ただのご近所さんです。……悪い人ではないんでしょうけど」
「どうだろうねぇ。気を付けないと、イツキくん、すぐ食べられちゃうから」
「………そんな事は……」



『ありません』を言いかけた唇は、松田に、塞がれてしまった。







posted by 白黒ぼたん at 22:57 | TrackBack(0) | 日記

2023年03月23日

帰宅








イツキが部屋に戻ったのはまだ日付が変わる前だったが
すでに黒川は帰って来ていて、リビングで細かな作業をしていた。
テーブルには仕事の資料と、新聞。酒とツマミが乱雑に並ぶ。


「ただいま。ん、マサヤ、何飲んでるの?」
「……日本酒だ、新潟の。この間貰った……」
「……やだ!俺も飲みたいって言ってたやつじゃん」


イツキはキッチンから自分のグラスを取ると、黒川の座るソファへと向かう。
定位置の黒川の足元にペタリと座り、テーブルの資料を脇に寄せ、そこにグラスを置き
「注いで」と、黒川を見上げる。


「…………遅かったな、今日は」



黒川はふんと鼻息を鳴らし、イツキに酒を注ぐ。
別に、帰宅が遅いからと言って、怒っている訳ではないのだが。



「今日は店に松田さんが来てね。ご飯、食べて来たんだ」
「松田が?何の用だよ」
「仕事の用だよ。一応、ハーバルの関係者だもの」
「メシ…、だけか?」


一升瓶を手に持ったまま、黒川はイツキを見る。
イツキは酒の入ったグラスに口をつけながら、黒川を見る。


「………聞く?」

「………いや」

「…聞かないの?」

「わざわざ聞くことでもないだろう」



黒川はさして興味の無いフリをして、一升瓶をテーブルの脇に置く。
自分のグラスを取り、煽ってみせるのだが、それは殆ど残っておらず
慌ててもう一度、一升瓶を取り、自分のグラスに注ぐ。



ふいに、そのグラスをイツキが取り、邪魔にならないところに置き直した。
身体を捻り、黒川に向き直り、解り易い膨れっ面を見せる。




「もう! 聞きなよ。マサヤ。…いや、今日は別に何もなかったけどさ。
もうちょっと、気にしても良いんじゃない?」



そう言って、黒川に、しがみつくのだった。







posted by 白黒ぼたん at 15:08 | TrackBack(0) | 日記

2023年03月25日

近状報告









「…またイベントがあるかもって言ってた…、正直、これ以上、仕事が増えたら困る。
俺、最近、頑張ってると思わない?

なんかもう、ハーバルの社長、事務仕事は全部こっちに移したがってるみたいで…
数字も計算も苦手なのに。パソコンは少し覚えたけど。

ミカちゃん、早く帰って来て欲しい。……予定日はもうすぐ。
でも、すぐに復帰は無理だもんね。……人、増やして欲しいかも……」



ソファで互いの身体を絡めるように座り、近状報告をし、酒を飲み、合間にキスをする。
黒川はイツキの頭に手をやり、髪を漉きながら、話を半分聞き流す。

イツキの髪は、爽やかながらもどこか甘い、オリエンタルな匂いがする。
もっとも、風呂場のシャンプーがハーバルの製品なのだ、黒川自身も同じ匂いがするに違いない。



「松田さんが手伝うって言うけど……ちょっとねぇ。ああ、俺、一ノ宮さんに来て欲しいな。駄目?」
「駄目に決まっているだろう」
「………けち」


イツキが小さく呟いたところで、お喋りに飽きた黒川が、イツキの身体をソファに倒す。
シャツのボタンを外し、手を差し入れ、見えた素肌に唇を這わせる。

相変わらず、馴染みの良い滑らかな肌。
ピンと張る乳首を摘むと、「…ん」と小さな声が漏れる。
少し肉がついたのか柔らかな感触は、それはそれで良くて
爪を立てて引き裂いてみたくなる衝動を、今はまだ、ぐっと堪える。


「…それとね、隣の三浦さんが……変、かも。お店、全然、開けてない感じ…まあお客さんも来ないけど。
だからってウチに来すぎじゃない? いい暇潰し…なのかなぁ……

あと、気になることがあるんだけど…………マサヤ?」

「何だよ」


すでに黒川の手はイツキの腰に伸び
イツキのズボンのホックを解こうと、指先を引っ掛けてみたりしている。
いつの間にか黒川の方が、ことを急いでいるようだ。

イツキは一旦、その手を止め、もう一度ゆっくりとしたキスをせがみ、身体を擦り寄せる。






「する、なら……ベッドに行こうよ」



そう言って、ニコリと笑った。









posted by 白黒ぼたん at 23:37 | TrackBack(0) | 日記

2023年03月29日

寝室にて









「隣の三浦さん。良い人なんだろうけど…なんだか、気になるんだよね……」
「……お前が色目で見ているんじゃないのか?」
「あと、お店の周りも……たまに見掛けない車が停まってて……」
「……どこぞでお前がタラし込んで来たんだろう?」


寝室に移動しベッドに上がり、お互い、服を脱がせながらあちらこちらに唇を寄せる。
時折、黒川はイツキを馬鹿にするような言い回しをし、イツキはチラリと黒川を睨む。

それでも、黒川の手はイツキの中に入り、丁度よくくるりと撫ぜあげる。
イツキはふうと甘く息を付き、腰を揺すり、尻で感触を味わう。


「……い、一ノ宮さんにも、聞いたんだけど。あのお店の場所って……キレイ?
何か、ヤクザ絡みの、何かがあったりしない?」
「無い。その辺りは松田も調べたんだろう?」
「ん。問題は無いって言ってたけど。わりと新しい地域だし、そういうのは…無いって……
でも、一応、上にはいるらしいから……挨拶に行った方が良い…かな……ぁっ…て……」


黒川は指をイツキの中に残しながら、イツキの中心にも舌で愛撫を与える。
これをされると、イツキはもう喋ることが出来なくなる。
黒川の髪の毛に指先を絡め、頭を、押し付けたいのか引き剥がしたいのか。
それとももう、そんな前戯は良いから、早く次に行って欲しいのか。


「挨拶?止めておけ。いらんトラブルの元だ。
どうせ目を付けられて、すぐにヤられる。………こんな…」





黒川は顔を上げ、そう言いながら指をイツキの中から、わざと焦らすようにゆっくりと引き抜く。
イツキはそれだけで達してしまいそうに悶え、身を捩り、んんん、と声を上げる。


「……こんなズブズブのいやらしい身体で、何の挨拶だよ」


黒川が挿入しようと自身の先端をイツキの入り口に当てがうと
イツキの腰は、自動的に上がった。







posted by 白黒ぼたん at 12:06 | TrackBack(0) | 日記