2023年08月03日
とばっちりイツキ・6
「……悪い。イツキてんちょ。……こんな事に巻き込んじゃって…」
「…まあ、俺もちょっと…弱味があって……、まあ、それは良いんだけど……」
少し二人で話しなよ、と、イツキを残し二条は部屋を出て行く。
扉を締めるとカチリと、ご丁寧に鍵の閉まる音がする。
三浦はパイプ椅子に座ったまま、手首もまだ繋がれたまま。
イツキはその近くにぺたんと腰をおろし、困ったなという風にため息をつく。
スマホを覗いてみたのだが、メッセージに既読は付かず、しかも電波の入りも悪い。
「…で、三浦さん。…なんで土地、売らないの?」
「………いや。…あいつらの言いなりになるのも癪じゃんか…」
「俺、ああいう人たち良く知ってるけど、……目、付けられたら…逃げられるもんじゃないよ?
「……いや、でも……」
口ごもる三浦に、イツキはもう一度ため息を付く。
それを見て、さすがに三浦も申し訳なく思う。
自分が揉めるのは仕方がないが、イツキが巻き込まれるのは本意ではない。
そして、ようやく真剣に、この状況が酷くマズいと思い始める。
「……土地はさ…、親の家があったとこで。……そこは別に良いんだけどさ。
……隣に、婆さんが住んでてさ。ただのご近所さんだけどさ、昔から世話になってて。
ウチの土地、売って、ビルが建つと、婆さんが困るよなっ…て
婆さんとこ、反対側もビルだし、日当たりも悪くなるし、可哀想じゃん?」
三浦は、ぽつりぽつりと
懺悔のように土地を売らない理由を話す。
イツキは少し驚き
『……そんな理由?』という言葉を
どうにか、飲み込んだ。
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2023年08月08日
とばっちりイツキ・7
「……三浦さん、とりあえず…、ここはあいつらの言う通りにして…
とにかく、ここ、出ましょう。
後のことは、俺……何とかしますから……」
「…イツキてんちょが?…何とかなんの?」
三浦のもっともな問いに、イツキはこくんと頷いてみせる。
とにかくここを出た方が良い。これ以上ゴネていても、良い事は無い。
「…俺、こういうのの…、こっち系の知り合いがいるので…、間に入って貰って…どうにか…」
「こっち系って…。…ヤクザ? ……ああ、それが『弱味』?」
「まあ、そんな所です」
こんな状況だというのに
面白い話を聞いたという風に、三浦はニヤニヤと笑う。
のらりくらりと人の話を聞き流しているようで、案外、重要な事は忘れていない。
他人なぞ気にしていない様で、実は、人のことを良く見ている。
「……それって、…車で送ってくれてた人?……知り合いって、どんな知り合いなのさ?」
いつものからかう調子で三浦は身を乗り出し、パイプ椅子を傾ける。
イツキが少し、イラっとしたところで
締め切っていた扉が開き、二条が顔を覗かせる。
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2023年08月12日
とばっちりイツキ・8
「どうかな?説得できたかな?」
半分馬鹿にしたような軽い調子で、二条が声を掛ける。
イツキはムッとした顔のまま二条の方を向き、それからまた、三浦を見て、さらにムッとした顔になる。
三浦はまだ決断しかねているようで、イツキから視線を逸せるのだが
もうそれも限界だとは解っていた。
「……三浦さん」
「…解ってるけどよ。……それでも、こいつらの言いなりとか…悔しいだろ…」
「もう、そんな事言っている場合じゃないでしょ」
小さい声で最後の説得をし、しばらく、押し黙る。
黙った後、ついに観念したように、大きなため息をついた。
「はいはい。解ったよ。ハン、押せば良いんだろ。クソ」
そう言って三浦は「クソ」と悪態を付く。
イツキは多少、三浦を気の毒だとも思ったが…それでも今は、こうするのが一番なのだと思う。
こういった奴らとは、まともな交渉など、最初から出来るものではないのだ。
対抗するにはそれなりの…力が、必要なのだ。
三浦の気が変わらない内にと、二条はすぐに書類を用意する。
当然、三浦は実印など持ち合わせていなかったのだが、後の契約に必要なだけの
署名や拇印や何やらを、手早く、三浦に要求する。
そしてそれらの手続きが終わると
今までのウサ晴らしとばかりに、
三浦を、座っていた椅子ごと派手に蹴飛ばした。
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2023年08月17日
とばっちりイツキ・9
「…手間かけさせやがって。最初から大人しく言うこと聞いていれば良かったんだ」
二条は忌々しげにそう言い、ひっくり返った三浦をさらに蹴飛ばす。
パイプ椅子に片腕を繋がれたままだった三浦は、倒れた拍子に変にぶつけたのか
なかなか起き上がる事が出来ない。
そこに、二条は追い打ちを掛ける。
イツキは少し驚いた様子で、ぽかんと立ち尽くす。
「……あの。…手、出すとマズいんじゃないんですか」
「椅子から転げただけだろ? ああ、大体、間が悪すぎるだろう」
「…ちゃんと、書類、書いたじゃないですか」
さすがに三浦を気の毒に思い、イツキは二条を制してみるのだが
…二条の不機嫌の理由は、別のところにあるようだ。
二条は、イツキの腕をぐいと掴むと、自分の方に引き寄せる。
予想もしていなかった動きに、イツキは身体を取られ、よろけながら抱きすくめられる。
「…間が悪いだろう。…コイツが良い返事するまで、あんたを甚振るつもりだったのによ。
せっかくの楽しみが、台無しになっちまった…」
「…は?」
「…まあ、せっかくだし。……ちょっと付き合ってよ」
抱きかかえられて、そのまま、三浦のいる部屋の外へと連れ出される。
扉は再び閉ざされ、カタンと、鍵が下りる。
posted by 白黒ぼたん at 00:39
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2023年08月22日
とばっちりイツキ・10
二条に蹴飛ばされた三浦は椅子ごと派手にひっくり返り、あちこちを酷く痛めたようだ。
「イテテ…」とようやく身体を起こし、何が起きたのかと戸惑う。
扉は再び閉められている。
イツキが向こう側に連れて行かれたのは、目の端に映っていた。
立ち上がり、繋がれた椅子ごと、扉の前まで移動する。
もとより薄い扉。耳をそばだてることもなく、向こうの会話が聞こえた。
「………や、……だ。……もう、話は済んだでしょ……、や…っ…」
「ここからは俺と店長さんとの話。……遊ばせてよ」
「………やっっ」
言い争うような声と、何か暴れているようなバタンバタンという音。
実際、この時のイツキは、二条の手から逃れようと手を振り回し、
それをもう一人の男、二条の部下の派手な上着の男に取り押さえられ
部屋の隅の仮眠用のスペース、おそらく、非常用の寝袋を敷いただけのものだが
そこに、追い込まれていた。
「店長さん。…身体売ってたなんて、周りに知られるの、嫌でしょ?」
「………脅すつもりですか?…そんなの、後からバレたら……俺のバックに怒られますよ…」
「怒られちゃうの?それは嫌だなぁ、ハハ。……まあ、三浦の件のオマケって感じでさ…」
イツキの言葉も、まるで二条には響かず。軽く笑ってあしらわれてしまう。
寝袋のマットの上に倒され、派手な上着の男に腕を抑えられ、足元に、二条が跨る。
そうやって、拘束され、上から見下ろされるだけで
イツキは駄目なのだ。
posted by 白黒ぼたん at 14:25
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2023年08月24日
とばっちりイツキ・11
「二条さんってコッチの趣味もあるんですか?」
イツキの腕を押さえている派手な上着の男が聞く。
もちろん商売柄、身体を売る男は知っているが、あえて自分が抱こうとは思わない。
確かに、今自分が捕らえているヤツは、白い肌に細い線、妙に艶かしい声を上げるが
それでも、男だ。挿れる穴が違う。
「んー、無ぇよ。ああ、でも、一回ヤったな。……それが酷くてよ。
見た目は可愛いんだけど、やっぱりヤローでさ。もう、萎えたわ」
イツキの足に跨る二条はそう答えながら、イツキの服を脱がして行く。
シャツを捲り、ズボンのベルトを引き抜き、ボタンを外しズリ下げる。
下着に手を掛けると、イツキは大きく腰を反らせ、最後の足掻きを見せるのだが
まあ、何の役にも立たない。
「……なもんで、リベンジって言うの?…イイの、してみたいんだよね」
二条は、イツキにも語りかけるように、イツキの顔を見る。
怒ったような怯えたような高揚した様子が、何とも食指をそそった。
三浦は
扉に耳をピタリと付けて、外の様子を探る。
バタンバタンと物がぶつかる音と、イツキの叫び声が聞こえ、イツキが何か暴行を受けている事を知る。
男二人の話し声は、聞こえたり、聞こえなかったり。
「……あッ、………んんっっ」
一際高いイツキの声に
暴行の種類を察し、息が止まった。
posted by 白黒ぼたん at 23:06
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2023年08月29日
とばっちりイツキ・12
イツキは
もう、この段階になっては逃げ出すことは出来ないだろうと諦めていた。
ならばなるべく騒がず、感じず。
ただのつまらない人形のフリをして、早く事を終わらせてしまおうと思っていた。
実際、こんな事は、珍しい事でもない。
よくある事。…ここ最近は、まああまり無かったけれど。
でも、よくある事で、大したことではない、と。
もっとも、イツキがどう思っていようが
唇をきゅっと閉じ、眉間にシワをよせ、時折ぴくりと身体を揺するさまは色気があったし
冷たいローションのようなものが股間に垂らされた時には、思わず、声が漏れてしまった。
「……開けろよっ、なあ、おいっ、何やってるんだよ…
…イツキてんちょ…大丈夫かよっ……、おい、開けろよッ」
三浦は扉を叩き大声を上げる。
イツキが男に乱暴されている。
それは三浦の理解に及ばないことで、すでに軽くパニックを起こしていた。
扉を叩き、扉の取手をガタガタとやり、向こうの声や音に耳を欹てる。
「………お、ヤべぇ。……簡単に……入るもんだな……」
二条の声が聞こえた。
posted by 白黒ぼたん at 00:18
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