2023年12月03日
確認
ひとしきり喋り、謝罪し、後は静かになる。
謝罪が済めば他に用事は無いはずだが、当然それで終わるはずはなかった。
「…なあ。…この後、付き合わねぇ?
メシか酒でも、どうよ?」
「付き合いません」
「……じゃあさ、もう一回、やらせてくれねぇ?」
あまりにストレートな誘いに、予想はしていたが、イツキは呆気に取られる。
それで、了解の返事を得られるとでも思っているのだろうか。
「…やりませんよ。…俺が、手、出しちゃ駄目なやつって…、もう解ったのでしょ?」
「…そうなんだけどよ。……なんて言うか…、確認したくてさ……」
「…確認?」
夕暮れ時。
室内も急に暗く、寒くなる気がする。
二条はカウンターに身を乗り出し、奥のイツキを口説き始める。
そろそろ閉店時間なのだし、早いところ、この状況から抜け出さないといけない。
「確認することなんて、無いです。…もう、話も、無い……」
「俺はある」
いやに真面目に熱っぽく迫られて、イツキは若干戸惑っていた。
……実を言えばイツキにも、……確認したいことがあるのだ。
それは、黒川にも話していなかったのだが。
posted by 白黒ぼたん at 00:59
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2023年12月05日
おかしな事
イツキが『仕事』で客を取らなくなって、暫く経った。
黒川との関係も概ね良好。
意にそぐわない行為の時には、ふいに黒川を思い出して、困る。などと
可愛い事を言ってみたりもする。
実際、二条との行為も、嫌だった。
三浦のとばっちりで、乱暴に組み敷かれ、された訳だが
嫌だと思う反面、身体は、異様に感じていた。
「なあ、店長さん。本当にさ、悪かったと思ってるんだぜ。
そのお詫びも兼ねて…って言っちゃ、変だけど。…いやぁさ
俺、あんたみたいなの、初めてなんだよ。ちょっとさ、勉強の為にも…
……もう一回、やらせてよ」
二条は妙な理屈を並べ、イツキを口説く。
イツキは怒ったような顔をして、首を横に振る。
あの時、あんなに感じていたのは……あの状況だったからなのだ。
別に、二条自身に、何か特別なものがある訳ではない。
駄目という場所で、嫌な相手に無理やり犯されて、少し、興奮しただけ。
挿入された瞬間の、とろけるような、頭の天辺まで痺れるような、あの感じは…
何だったのか。
確認してみたい……と、思うのは可笑しな事だった。
posted by 白黒ぼたん at 22:04
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2023年12月10日
普段通り
黒川がマンションの部屋に帰って来たのは、もうすぐ日付が変わる時間だったが
イツキはまだ起きており、風呂上がりなのか濡れた髪をタオルで拭きながら「おかえり」と言う。
キッチンでは何か料理でもしたのか、皿と、フライパンと焦げた臭いが残り
飲みかけの、ワインのボトルが置いてあった。
「……1人でこんなに飲んだのか?」
「違う、違う。お肉焼くのに使ったんだよ。まあ、ちょっとは飲んだんだけど…」
イツキは笑ってそう言い、キッチンの黒川の隣に立ち、水を一杯飲む。
仕事帰りに買い物に行き、ステーキ用の良い牛肉を買って来たのだと言う。
「でも焼いたら少し硬くなっちゃった。…まだ半分あるんだけど、マサヤ、焼いてよ」
「……肉は冷蔵庫か?常温にしておけよ……」
「ああ、それのせいなのかな。…あんまり生っぽいのも嫌で、焼いてたら、焼き過ぎちゃって…」
黒川は面倒臭そうに、ふん、と鼻息を鳴らしながらも
冷蔵庫から肉の包みを出し、様子を見ている。
イツキは残っていたワインをグラスに注ぐと、キッチンを出て向かいのカウンターに座り
黒川の手際を眺めていた。
実は
二条虎松と軽く遊んで来たのだが
思っていたほど、良くなかった。
やはりあの特殊な状況下が、そう勘違いさせたようだった。
「……マサヤ」
「…なんだ?」
「……おれ、ミディアムとミディアムウェルダンの間ぐらいがいい」
「面倒な客だな」
そう言って、黒川はフライパンを傾ける。
肉の焼ける良い匂い。それだけでイツキは、満たされるようだった。
posted by 白黒ぼたん at 21:39
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2023年12月19日
お人好し
夕方。イツキは黒川の事務所に向かう。
中では一ノ宮が1人、パソコンで作業をしていた。
お互い、ぺこりと頭を下げ、イツキはソファに座る。
この後、黒川と落ち合い、食事に行く予定だった。
「…いかがですか?、もう、問題は起こりませんか?」
「…ん?うん。…ああ、三浦さんがありがとうございましたって。
一ノ宮さん、向こうに少し言ってくれたんでしょう?
結局、土地は手放したけど、良い条件だったって。
お礼に来たいって言ってたけど、それは断っておいた」
イツキはそう話し、一ノ宮は静かに頷く。
理不尽にトラブルに巻き込まれイツキに害があったのだから、本来ならもっと大事になるべきなのだが
イツキの希望もあって、結局は金で方をつけたのだった。
「イツキくんには、ただただ、災難でしたが……」
「ああ、俺は別に。あれぐらい…なんとも。
…なんかね、隣のお婆さん、息子が四国にいるらしくて、そっちでホームに入るんだって。
良いところ、見つけられたんだって」
「それは良かったですね」
「三浦さん、今まで世話になった礼だって、結構な額を援助したみたい。
本当、お人好しだよね……」
イツキは小さく笑う。
目の前のテーブルに、どこぞの貰い物のチョコレートの箱を見つけ、一つ、摘む。
一ノ宮は、『お人好し』はイツキの方だろうとつくづく思う。
どれだけの身を切り売りして、他人に施しているのか、自分では気がついていないのだろう。
黒川に与えている分とて、決して、安くはない。
「…イツキくん、大丈夫ですか?」
今はどうにか人並みに暮らしてはいるが
イツキの日常がオカシイ事は解っている。
常に漠然とした不安が横たわり、気に掛かる。
けれど最終的に黒川の部下である一ノ宮には、イツキを労ってやるくらいの事しか出来ない。
イツキはチョコレートを口の中で砕きながら
返事の代わりに、ふふ、微笑んだ。
posted by 白黒ぼたん at 12:40
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2023年12月23日
イツキも黒川も
「……はぁ?」
「…だから、大したこと無かったって。二条虎松。
俺、あの時、なんか感じが違って……、何かなって思って、確かめてみたんだけど…
……気のせいだったみたい。2回目は普通だった」
イツキがそんな事をポロリと告げたのは、夕食にと入った焼き鳥屋で
すでにビールを数杯飲み、次は日本酒にすると、コップに並々注がれた酒を飲み干し
空いたグラスを傾けお代わりをねだった頃。
カウンターの向こうの店の大将は、いつもの事とは言え
話を聞かない振りをして、イツキのグラスに、また酒を並々と注ぐ。
「ヤったのか。…その男と」
つとめて冷静に黒川は聞き直す。
「ん。昨日。…一昨日?…ハーバルに来て。
虎松さんも俺みたいなのは初めてだったって言って、もう一度、シてみたいって言うから…
……でも、まあ、別に、俺は……。
ああ、でも虎松さんは良かったみたいだよ。次は?次はって、後がしつこくて……」
注がれた酒を飲みながら、イツキは、ふふふと笑いながら言う。
少し憮然とした表情の黒川をチラリと眺め、何か、言われるかな…と間を置き
黒川が何も言わず、馬鹿にしたようにふんと鼻息を鳴らすのを見て
また、ふふふ、と笑う。
「駄目だった? マサヤ。ほら、俺はただの穴だって言われてたから…
使っても、洗って返せば良いって言ってたじゃん。…だから」
「……ああ。そうだな。タワシでも突っ込んで洗っておけ」
「あはは。それは痛いよ」
冗談めかして、イツキも黒川も笑い合っていたけれど
内心穏やかではないのは、イツキも黒川も同じだった。
posted by 白黒ぼたん at 01:14
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2023年12月26日
話し相手
「……イツキちゃん、二条虎松とヤったの?……それを黒川さんに話したの?」
「…うん」
数日後。
ハーバルの店舗に顔を出した松田は、そのまま閉店まで付き合い
帰りがけに軽く、食事へと誘う。
イツキも、軽くなら良いですよと近くの店に入るのだが、まあ、軽くで済むはずもない。
何杯か飲み、近状を報告し、その話しになる。
「…黒川、…怒ったでしょ?」
「起こらないですよ。そんなので、イチイチ」
「そうなの?」
松田は驚いた様子だったが、イツキは一向に介せずといった風にビールを煽る。
けれど、それは少しポーズのようで、本当は何か思うところがあるのを誤魔化すために、酒を流し込んでいるだけなのだ。
「…俺、そういう仕事だったんで。…するのは、全然。
…松田さんとの事だって、マサヤ、何も言わないし…
どうでもいいって、思ってるんじゃないですかね」
「…それはさ、ちょっとは気にして欲しいって事なのかな?」
「……気にされて、アレコレ言われたら、もう松田さんとも会えなくなりますよ?」
そう言って、イツキは視線だけを松田に残しながら、残りのビールを一気に飲み干す。
松田は、それは困るなぁと笑い、自分もグラスに口を付ける。
本当のところ
黒川にどういう態度で接して欲しいかなど、イツキにも解らないのだ。
過去にあれだけ「仕事」をさせておいて、いまさら、他の男と寝るなとは言わないだろうが。
解らなくて、今は一つ一つ、確認しているところ。
「じゃあ、まあ、黒川さんに怒られないなら…、場所、替えようか?」
空のグラスをテーブルに置き、松田は普通にイツキを誘い
イツキは、……まあ、そうなるよね……と、小さくため息をついた。
posted by 白黒ぼたん at 16:19
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