2024年04月02日

久々レノン








タクシーでホテルに向かい、指定された部屋の前まで来て
イツキは一応、警戒する。
……ここはでは以前、レノンと間違われて、拐われて乱暴された事がある。
……それに限らず、捕まって、犯されては……何度も経験しているのだ。

ベルを鳴らそうと上げた手を止めて、もう一度確認してみようとスマホを取る。





「……レノン君?……ドアの所まで来てるんだけど…、他に誰か……」

「何してんのさ。早く入って!」




電話の途中で目の前のドアが勢い良く開き、中から出て来たレノンに怒鳴られる。
レノンはイツキの手を引いて、とにかく中へと引き入れる。



「遅いよ。俺、もう、困ってるんだから。…ヤバいんだから……」
「…えっ、あっ…、レノン君……だよね?」
「はぁ?何、言ってるんだよ、イツキ」
「……いや、だって……」




何の心構えも出来ない内に室内に入ってしまったイツキは

まず、その、レノンだという少年の様子に戸惑う。

確かに、顔立ちは、以前に会った時の面影を残していたが……

スラリと長身、髪も短く、可愛い少年というよりは、格好良い青年。

いや、ヤンチャなチンピラ……といった様子。




「……なんか、随分…、変わったね、レノン君……」

「まあね。半年で10p伸びたぜ。……って、そんな事はいいから…
あいつの様子、見てやって。風呂場から出て来ないんだよ……」



そこまで話をして、やっとイツキも少し周りを見ることが出来た。

ビールの空き缶と脱ぎ散らかした服。
ベッドの上には遊びに使ったであろう玩具の数々。
シーツには血か、何なのか…良くわからない汚れが点々としていた。






posted by 白黒ぼたん at 00:24 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月05日

ニワトリ









風呂場にいたのは、小柄な若い男の子だった。
以前、黒川と一緒にいた子に似ている気がした。
裸で、バスタブに寄りかかり、吐瀉物と排泄物にまみれ
それでも嗚咽を繰り返し、満足に呼吸も出来ない状態だった。

何をされて、どうしてこんな事になったのかは
説明されなくても、イツキは知っていた。



なだめすかし、とにかく身体の汚れを洗い流し、風呂場から連れ出す。
幸い、衣服は事が始まる前に脱いでいたようで、綺麗な状態だった。
それを羽織らせ、ソファに座らせ、ポットで沸かした湯を飲ませる。

少年はまだ肩を震わせていたが少しは落ち着いたのか
そのままソファに横になり、沈むように眠ってしまった。







「……俺さ、今、西崎組長の所で使って貰ってるんだだ…」



傍で見ているだけだったレノンが、ようやく近寄り
ベッドの毛布を引きずって、少年の肩に掛けてやる。

落ち着いたのはレノンも同じだったのか
ふうと息をついて、イツキに事情を説明し始めた。



「……何度ヤっても慣れてこないし、そのうち、背も伸びて、声も変わって、色気もクソも無いって。
…アノ時なんて、俺、ニワトリを絞め殺したような声で叫ぶんだってさ、…はは。

で、使いモンにならないなって、ようやく、そっちは外されたんだ。
……ま、俺としちゃ、ありがたい話だったよ。」



レノンは顔立ちこそ整ってはいるものの
性格は粗野で攻撃的。あちらの具合も、悪い。

このまま男娼として使って行くよりも、西崎の所で修業させ
構成員として使って行く。

そう言う事になったらしい。




posted by 白黒ぼたん at 00:06 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月09日

替わりの子









「…それにしたって、こんな仕事。レノンくん、まだ、…学生でしょ」

「もう17だよ。学校も行ってない。働くのは別にいいんだけどさ。
……今日のは、佐野さんに言われて、たまたま来ただけだし……

でも、なんか、自分もされたことだし…妙に生々しくってさ…
色々、思い出しちゃって……テンパっちゃった。

…来てくれて助かったよ。ありがと…」



やっと安心できたように、レノンはそう言って微笑む。
きちんと礼を言えるとは、なかなか可愛い所もある。



確かに。
その身に経験のあることだからこそ、ましてまだ、その傷が癒えていない時期だからこそ
パニックになってしまったのだろう。



「……この子は?」

「……ユウ…だったかな…、確か。新しい子。
あんたの替わりの俺の、その替わりの子?……はは、黒川ってさ
ロクな仕事、してないよね……」

「…そうだね…」



そうやって少し、レノンと話をしていると
ソファでうとうととしていた少年…ユウという子が目を覚ました。

肩に掛かった毛布をぎゅっと握り、身を硬くしているが
とりあえず、目の前の2人が自分に危害を加えるものではないと解ったらしい。



まだまだあどけなさが残る、綺麗な顔立ちの少年。
青白い顔には涙の跡が残り、乱れた髪が張り付いていた。






posted by 白黒ぼたん at 14:52 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月12日

間の悪い男








その後。
イツキとレノンとユウはホテルを出て

レノンはユウを送ると言って、タクシーに乗り込み
それを見送って、イツキも別のタクシーに乗り自宅へと戻った。
何だか妙に疲れてしまったのは、身体、よりも心で

青ざめた顔で肩を振るわせていたユウの姿が、思い出したくもない過去の自分に重なった。





「……なんだ。遅かったな」


マンションの部屋に戻ると、間の悪いことに
すでに黒川が帰宅していた。
イツキは、本当は今日はもう、誰とも何も話さずに寝てしまおうと思っていたのだけど

普通に、普段通り、酒を飲んでいる黒川を見たら…少しイラついてしまった。


「ん。ちょっと、寄り道……」
「なんだ。男、か?」
「そうだよ」


イツキは冷蔵庫から缶ビールを取り、キッチンの中で飲み始める。
黒川は、いつもの軽口にイツキが即答したのに、少し驚いていた。



「…松田か?」
「違う。……マサヤこそ、今日は早いじゃん。仕事があるんじゃないの?」
「…無い日だってあるだろう」
「…そうなの?」



あの少年に「仕事」をさせ、終わったあとのケアも何もなく、自分は休んでいるといるというのが
ことさらイツキの神経を逆撫でる。


黒川は、いちいち突っ掛かるイツキの物言いに軽く腹を立てるが


同時に


何か、怒らせるような事をしただろうかと、思いを巡らせる。







posted by 白黒ぼたん at 23:40 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月16日

いつもの軽口








「……昨日ね。ユウ、くん?に会ったんだよ」
「………は?」
「…仕事の後。……ホテルで」


イツキが重い口を開いたのは翌日の朝。
キッチンでコーヒーを淹れるイツキに、黒川が近寄った時だった。



それでも。
昨日の夜は、することはしたのだ。


若干、機嫌の悪いイツキを黒川は抱き締め、寝室へと連れ込む。
イツキはどこかのタイミングで、その話をしようかと思っていたのだが
つい、流れてしまった。

少し酒を飲んでいた黒川の手は、思いの外、甘く優しくて。
簡単にイツキを溶かし、乱してしまった。
……今では自分に向けられるこの手が、自分以外の…ユウや、その他の相手には
無慈悲で残酷だったりするのが申し訳なくて。

かと言って、もう、この手を離すことは出来なくなっていて。

イツキは黒川の身体にしがみついて、もっと強く抱いて欲しいと懇願し
黒川は、今日のイツキはただの欲求不満だったのかと、少し調子に乗るのだった。





「……レノンくんに呼ばれたんだ。……ちょっと、大変って……」

「レノン?……昨日は佐野に任せたはずだぞ」

「佐野っちに頼まれたんだって。それも、駄目だよね。もうちょっと、ちゃんと…見てあげなきゃじゃん。
いや…そもそも、本当は、そんな事も駄目なんだけど。

…どうしたらいいのかな。

……駄目なら、駄目なりに……せめて、もうちょっと……良い方法が…無いのかな……」



ぽつりぽつりと呟き、イツキは憂鬱な表情を見せる。
マグカップに注いだコーヒーを啜り、ふうとため息を吐く。



「……良いも何も。そもそも、お前の替わりがいなくて苦労しているんだろう。

……戻るか、イツキ。それで上手く回る…」




黒川も、自分のカップに注がれたコーヒーを飲み
ふふふと笑いながら、心にも無い、いつもの軽口を言うのだが


イツキが横目で酷く睨みつけるので、慌てて、口をつぐんだ。





posted by 白黒ぼたん at 22:59 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月20日

焼け木杭の二人・1








「……イツキ。本当にいいのか?」
「良いって言ってんじゃん。…佐野っち」


街の外れの昔からある古いホテルの前で、佐野はもう一度確認する。
酒を飲み過ぎた訳でも、特別に嫌な事があった訳でもなく、
普通にお互い同意の上で、この建物に入るというのは……実はなかなか新鮮で
佐野は、繋いだイツキの手をぎゅっと握り、植え込みの奥にある入り口へと向かった。






その日、イツキが珍しく、佐野の食事の誘いに乗ったのには理由があった。

…黒川が『仕事』をさせているユウという子のこと。
面倒を見るという役を、佐野がサボっているのではないかということ。

それと……



「…いや、あの日は…スマン。俺が行くハズだったんだけど…まあ、ちょっとあって。
……けどさ、俺だってもう、そこそこ偉いぜ?……いつまでも社長の雑用ってのもな……」

「でも、頼まれた仕事なら、ちゃんとしなくちゃでしょ。…まして、代わりにレノンくんを行かせるのは無いよ。
まだ子供だよ。しかも、この間まで同じコトされてた子だよ……」

「…ああ。…でも、レノンの奴、結構使えるんだぜ、度胸があるって言うのかな。
ウリ、やるより良いよ。はは、あいつ、床下手だったからな」


佐野はそう言って笑い、手元のビールを煽る。
テーブルの上には餃子と野菜炒めと五目焼きそば。

懐かしい街中華のメニューは
昔、イツキの『仕事』の後に、よく2人で食べに行ったことを思い出させる。





posted by 白黒ぼたん at 22:24 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月23日

木杭・2








「…お前の『仕事』の後、よくメシ、食いに行ったよなぁ…」
「…行ったね」
「何年前だ?」
「……5年、くらい?……昔話だねぇ…」


イツキは佐野と目を合わせると、くすくすと笑う。
それはごく最近のことのようで、それでもやはり、昔の話で。
けれど忘れてしまうには、あまりに深く生々しい思い出だった。


「…佐野っち、…俺の面倒、良く見てくれたよね。…後片付けとか、酷かったでしょ?
…俺、ぐちゃぐちゃで……、それでも付き合ってくれて…
ご飯、食べに行って…、話とか、聞いてくれて。

俺、多分、すごくそれで救われたんだと思う」

「…おう。…何だ、…急に……」




しみじみと語り出すイツキに、佐野は少し、たじろいでしまう。
佐野にとってもその思い出は、簡単に整理がつくようなものではなく。

社長に命令され携わった、ただのガキの相手……というだけではない。
可愛くて可哀想で、健気で、欲望の対象で、仕事の駒で……愛しくて。
説明が付かない感情がぐるぐると巡り、今でもまだ、時折、困る。

そんなイツキに

真面目な顔で話をされては

収まっていた熱が、簡単にぶり返してしまう。




「…すごく、助けてもらった。本当に。
だから、次の子も、助けてあげて。支えてあげて欲しいんだ…」

「いや」



佐野は、手に持っていた食べかけの皿を一度テーブルに戻し
ビールを一口飲み、口元を手で拭い、ふうと息を吐く。



「…イツキ。それは違うわ。

いや、仕事だしよ。ユウの面倒はちゃんと見るさ、だけどよ

お前との、アレコレは…全然違う。

…あれは、お前と、だからだよ」





posted by 白黒ぼたん at 23:03 | TrackBack(0) | 日記

2024年04月28日

木杭・3








佐野がイツキと出会った当初。黒川の、イツキの扱いは酷いものだった。
イツキは客を取らされ、「仕事」の後はベッドから起き上がることも出来ないほどで。
送迎を任されていた佐野は、もろもろ、後始末も仕事の内で
最初の頃は仕方なく、汚れたイツキを洗い、痛みで泣くのをなだめたりしていた。

次第に、一緒に過ごす時間が長くる。
イツキは、佐野のアパートの部屋にも行くようになった。
当然、身体の関係もあったのだが、それらはすべて黒川に黙認されていた。
……黒川にも若干、負い目があったのだろう。

イツキと佐野の関係は、恋愛というものでは無かったのだけど
その時のイツキには確かに必要で、大事な時間であることは間違い無かった。




「……解ってる。…佐野っちが特別、優しくしてくれたってこと」
「……イツキ」
「佐野っちの部屋で食べたラーメン、美味しかったよね。一袋を、分けっこしてさ…」
「そんなこともあったな。俺ら、良い感じだったよな…」



昔という程、大昔の話ではない。あの頃からまだ5年しか経っていない。
2人は感傷に浸り、少し、押し黙ってしまう。


テーブルの上では佐野の手が、ごく自然に、イツキの手に触れ

指先を掴んだまま、離れる事がなかった。






「………なあ、イツキ……」


佐野の言葉が終わらない内に、イツキは


「…いいよ」


と、返事をした。







posted by 白黒ぼたん at 01:34 | TrackBack(0) | 日記