2024年10月01日
お喋りな一ノ宮・4
「…会った? 俺、その人に?……俺、その人と……した?」
「いえ、…していないと思いますよ」
「俺が会った人の中で、してない人なんて、いないよ。いつ、どこでだろう…」
黒川の「親」の話にイツキは思った以上に驚き、慌て、興味津々といった様子。
一ノ宮は少しお喋りが過ぎたかと、口をつぐみかける。
後は適当に誤魔化し、はぐらかしても良かったのだが
「2年ほど前ですか、イツキくんが高校の修学旅行に行った時です。
京都の病院に、お見舞いに行ったでしょう?
あの方が社長のお父様ですよ」
これも何かの機会なのかも知れないと、話す。
イツキはそれを聞き、今まで以上に目を丸く見開き、驚く。
「…お父様は関西地区では名の通った、まあ大物ヤクザというやつなのですが
…社長は庶子で。……ああ、お妾さんの子、というやつです。
向こうの奥様と折り合いが悪くて、まあ色々、面倒な事もあるようで
あまり大っ平に顔を出さない方が良いようなのです。
社長も今更、相続やら跡目やら、関わりたくはないのでしょう。
ああ、お父様は持ち直されて、まだご存命で…
お母様は早くに亡くなっています」
イツキは、当時の事を思い出しているのか、真剣な表情で固まっていた。
posted by 白黒ぼたん at 00:27
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2024年10月06日
お喋りな一ノ宮・5
確かに。
高校2年生の終わりに行った修学旅行で、黒川に頼まれ、誰かのお見舞いに行った。
黒服の男達が警護する中、物々しい雰囲気だったのを覚えている。
……黒川は…、何と言っていただろうか……、『昔、世話になった人だ』と言ったような……
自分にはありがとうと、……珍しく、感謝されたような気がする。
「……そうなんだ。
……なんで、俺に、……行かせたんだろう……」
昔の記憶を辿り、イツキはふうとため息を吐く。
事情があるとは言え、病身の身内の見舞いに自分を行かせる、その理由が解らない。
「それは勿論。それだけイツキくんの事を特別に考えているからでしょう。
……あの人は意外と、イツキくんが思うずっと以前から
イツキくんのことを好いているんですよ」
「…………すッ」
そこまで話し終わったところで丁度、黒川が事務所に戻って来た。
やれやれといつもの悪態を吐き手荷物を机の上に投げ、ソファの、イツキの隣に座る。
「クソ。話の通じない奴らだ。やはり上から話を通さないと駄目だな。
一ノ宮、明日、もう一度行く。宮原のジジイに連絡しておけ。
イツキ、お前はいつもヒマそうでいいな。明日、一緒に来るか?
ジジイのご機嫌でも取ってくれよ、得意だろう?………はは」
黒川はネクタイを緩めながら、そう話し
鼻で笑ったところで
一ノ宮とイツキの様子が、何か少し違うことに気が付いた。
posted by 白黒ぼたん at 23:28
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2024年10月11日
お喋りな一ノ宮・終
「…何を話していたんだ? 一ノ宮と」
「んー」
事務所からの帰り道。
歩いてマンションまで向かう途中で黒川が聞く。
イツキは適当な返事をし、何かを思い出したかのように微笑み、黒川はさらに訝しむ。
「どうせ俺の悪口なんだろう、くだらん。…お前は暇でいいな」
「…まあね。…あー、じゃあ、マサヤ…俺、明日の仕事、手伝う?」
「ハァ?」
「どっか行くって言ってたじゃん。俺、…行く?……何か、しようか?」
そう、イツキは素直に申し出るのだが、黒川は眉間にシワを寄せ、
「……いらん」
と、一言、言うのみだった。
不機嫌なのかいつも通りなのか
半歩、自分の先を歩く黒川の背中を
イツキは付いて、歩く。
前は見上げるようだった肩の線が、今では
目線と、同じ高さになっていた。
posted by 白黒ぼたん at 08:00
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2024年10月25日
おかわり
常夜灯の薄い光をたよりにイツキは廊下をぺたぺたと歩き
キッチンへ入ると、流しで水を一杯飲み、ふうと息を吐く。
身体の芯が熱い。けれど、シャワーを浴びる程ではない。
この熱は冷めるのだろうかと少し考えるのだけど
生憎、頭もぼんやりとしていて、答えは出ない。
水をもう一杯飲み、そして、もう一度新しく汲み直して
それを持って、寝室へと戻る。
寝室のベッドの上の黒川は、上半身を起こし、スマホを眺めていた。
「………マサヤ、…お水、飲む?」
「ああ」
「……マサヤ…」
「…何だ?」
黒川はイツキから水のグラスを受け取り、口を付けながら、生返事をする。
イツキは、一応、黒川が水を飲み終えるのを待ってから
「やっぱ、もう一回、する」
と言って、ベッドの、黒川の足元に潜り込んだ。
posted by 白黒ぼたん at 23:20
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