2024年12月02日

飲み会・7







黒川も松田も、酒は、まあ強い。
その2人がそこそこ酔ったかな、と思う時は、かなりの量を飲んだという事だ。
店は、閉店時間。
ラストオーダーを告げて、大してごねもぜず、退店した2人を見送り
店員はほっと胸を撫で下ろしたことだろう。



「…じゃあな、松田」
「ええ?黒川さん、ここでお終いですか?次、行きましょうよ」
「……行くかよ」
「……おウチで、イツキちゃんが待ってるからですか?」



店先から少し歩いたところで、黒川はタクシーを止めようと通りをながめるが
丁度混み合う時間帯。空車の車はなかなか通らない。

松田の言葉に、黒川は返事を詰まらせ

とりあえず、もっと大きな通りの方へと歩き出す。




「…タクシー。ここんとこ減りましたよねぇ。都内でコレだもん、俺の地元は酷いもんですよ」
「…そうだろうな。…向こうは、仕事はあるのか?」
「まあ、それは、ボチボチ。土地は腐るほどあるんで。でも、人が居なくてね、寂れる一方で参ってますよ……」




松田は軽く笑いながら、それでも大真面目にため息をつく。
カタギでは無いにしろ地元の存続に心を砕いている松田を、意外と、黒川は悪く思っていない。
黒川は、郷愁、などというものは持ち合わせていなかったが
そんなものに寄せる、似た感覚を、松田に感じているのかも知れない。



「…そんな訳で。そこにポッカリ空いた場所に、何かヤバい企画を立てたいんですよね。
手始めに、温泉宿買い占めて巨大歓楽街、作ろうかな、と。

表も裏も、全部遊べるやつ。
都内からルート引いて、ガッポ、ガッポと。ね。

黒川さん、一口、乗りません?」





少し、感じた郷愁を打ち消して、松田が楽しげな計画を語り始める。


そして、次の店では


その巨大歓楽街の目玉にイツキがいたらどうだろう、と言う話で
大層、盛り上がったようだった。





posted by 白黒ぼたん at 11:41 | TrackBack(0) | 日記

2024年12月10日

飲み会・最終話







翌日。
昼過ぎになってようやく起きて来た黒川を見て、イツキは呆れたため息をつく。


「……飲み過ぎだよ。楽しいお酒ならいいけどさ」


イツキの言葉に一瞥だけくれて、黒川はキッチンに入る。
冷蔵庫に冷たいスポーツドリンクが入っているのは、イツキがコンビニに行ったお陰。


「……松田の阿呆が……、…調子に乗りやがって……」
「……そお?」


黒川はドリンクを飲みながらキッチンを出て、イツキが座るソファに向かう。
ちょいちょいと手をやり、イツキを少し横にずらし、その隣に座る。
イツキは、いかにも二日酔いの黒川を横目で眺め、ふふと小さく鼻で笑う。

今はこうやって悪態をついてはいるが、
深夜に帰宅した時には、それはご機嫌な様子だった。





すでに眠っていたイツキを強く抱きしめ、珍しく、『愛している』などと言う。
あと、『ずっと俺の傍にいろ』だの、『他の男とはヤルな』だの。

横柄な命令口調なのが若干、気に触るところだが…そこはまあ、許す。
酒臭いキスを繰り返しながら、そのまま寝入ってしまったのも、まあ、良いかと思えた。

自分の腕の中で寝息を立てる黒川は、無防備、そのもので。
抱き合ったままこの夜が、ずっと続くのもいいなと思ったりした。




「…酔っ払いマサヤ、…面白かったよ?」
「…面白いことなんかあるかよ。……何か、あったか?」
「……ふふふ」



イツキはまた小さく笑って


傍の黒川の肩に、頭を傾げた。






posted by 白黒ぼたん at 00:31 | TrackBack(0) | 日記

2024年12月31日

二人の大晦日







「…何だ、これは? 馬鹿か?
一体、何をどうしたら、こんな事になるんだ?
何も出来ないくせに下手に手を出すから、こういう事になるんだ。
……馬鹿が!」




大晦日。
いつもの、お約束の流れるような黒川の悪態が部屋に響く。
イツキは、それは言われなくても解っていると、若干不機嫌顔。

リビングのテーブルに置かれたお椀には
見て解るほどの、麺のふやけた温かい蕎麦が置かれていた。



「……ちょっと、茹でる時間、間違えただけだよ。…大丈夫だよ」
「グタグタじゃないか。…何が悲しくて、年の瀬にこんなモノを喰わなきゃいけないんだ」
「嫌なら食べなくてもいいよ。…別に」



イツキは口を尖らせたそう呟き、蕎麦に唐辛子を振る。
箸で麺を掴むと、案の定、途中でぽろぽろと千切れてしまう。



「……年越し蕎麦って、ちょっと、してみたかっただけだよ。なんとなく。
年末って感じじゃん。家族でさ、テレビとか見ながらさ……」

「………ふん」




黒川は鼻息を吐く。
蕎麦に唐辛子を振り、器を持ち、箸で蕎麦を摘み……そこねたので
器に口をつけ、汁ごとずずっと啜り入れる。



「……まあ、汁は美味いな。食べられなくはない」




そんな事を言う。




イツキは
『…汁はめんつゆなんだけどな』と思いつつ、それは言わず

「明日の朝は、お雑煮作るよ」と言い



黒川は、グタグタの麺を啜りつつ
「…ああ」と、言った。











やはり年の瀬に
何か書いてみたくなったのでした♡


みなさま
今年もスイッチに遊びに来て下さって
ありがとうございます。

良いお年をお迎えください。

posted by 白黒ぼたん at 16:26 | TrackBack(0) | 日記