2025年02月01日

会合







その日。
黒川が仕事に伴い連れていたのは、ユウという少年だった。

「…あれ? 黒川くん、今日はあの子じゃないんだ?……ほら、イツキくん、だっけ…?」
「はは。若い子の方がよろしいでしょう?……イツキはもう引退ですよ」

とある案件の関係者を集めた会合は、広々とした、一泊何十万とするホテルの部屋で行われる。
手前の、景色の綺麗なリビングで、それらしい話し合いをしている最中
奥に何部屋かあるベッドルームでは、それぞれの連れが、別の仕事を受け持っていた。

まだ、こういった場に慣れないユウは不安な表情を浮かべ、扉の前で身を固くするのだが
「…行け」と黒川に背中を押され、仕方なく寝室へと入っていく。


リビングの角のバーカウンターで酒を作り、他の参加者と幾つか言葉を交わした頃
奥の部屋から、ユウか、誰かの、叫び声が聞こえた。






『……やだ、やだ、やだ……、や、…こんなの、やだ、マサヤ…』
『いつまでも駄々を捏ねるな。……どうせ始まれば、すぐに、良くなるんだろう』
『……や……』

イツキを連れて来た時には、ベッドルームとの境もなく、奥の行為は全て丸見えだった。
二人の男に抱かれベッドへ押し倒されたイツキは、簡単に服を脱がされ、身体を開かれる。
拒絶する声が若干、耳に付いたが…、まあ、これが「仕事」なのだと、黒川が気にすることも無く
酒を飲み、書類を広げ、適当に、他の客の連れの女と遊び、また、酒を飲んでいた。


視界の端に


卑猥な格好で足を持ち上げられ、中心を突かれているイツキの姿が見えた。
漏れる声には艶が混じり、案の定、もう、良くなっているようだったが……
実際、その口元には別の男の性器が捩じ込まれていたため、その声も途切れ途切れだった。

一際大きくビクンと跳ね、白い身体を振るわせ、何かに縋るように手がシーツの上を泳ぐ。

どうにか顔を背け短い呼吸を繰り返す、その一瞬に、視線が合ったような気もしたが

黒川は気が付かなかったという風に顔を背け、ハハと笑い、隣りの女の太腿に手をやっていた。








バーカウンターで薄い水割りを飲みながら、黒川はぼんやりと、昔の事を思い出していた。

途中、何度か、奥へと誘われたのだが……そんな気にもならなかった。



仕舞いには会合の途中で、何だかんだと言い訳を重ね、ユウを連れて引き揚げてしまう。



周りの参加者たちはアレコレと詮索し、黒川もヤキが回ったものだと、少し株を下げるのだった。







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2025年02月09日

距離と干渉








「あ、おかえりなさい、マサヤ。今日は早かった…?」
「………ああ」



日付が変わらない内に部屋に帰って来たマサヤは、
何だか少し、不機嫌顔だった。
もう、寝る支度をして、最後にレンジでホットミルクを作っていた俺は
ちらりとマサヤを見て、そして、何も気づかないフリをする。


マサヤの、仕事の、アレコレは
あまり干渉しないのが一番。



「…お前は気楽でいいな」



案の定、良く分からない嫌味を言われるも、それは、軽く笑顔で受け流す。


「まあね。悩んでも仕方ないからね。…じゃ、おやすみ」

「…ふん」



とりあえず挨拶をして、熱いカップを持って、巣箱に引き払う。
シングルのマットを敷くので目一杯のこの場所で、小さな照明を灯し
ホットミルクを飲みながら、スマホで今日の動向を確認する。



カチャカチャとキッチンで、何か音がする。
マサヤが何かしているのだろうけど、それは、放っておく。







posted by 白黒ぼたん at 23:25 | TrackBack(0) | 日記

2025年02月17日

清水先輩・1








「お、おう。久しぶり」
「お久しぶりですー」


突然、清水から連絡があった。
清水は、高校を出たあとは少し離れた地方に働きに行っていて
実際に会うのは久しぶりだった。

駅前の大衆居酒屋で待ち合わせる。



「…卒業して以来か?…2年ぶり?」
「やだ、そんなになりますか?…ああ、でも、俺たちもう21ですもんね…」


ダブリの2人は同い年。
そしておそらく、一般の若者よりは濃密な生活を送っているため
年齢や、時間の感覚が多少麻痺している。

ハタから聞けば21歳なぞ、まだまだ若い、子供の年齢だが
2人は、歳を取ったものだと、顔を見合わせてくすくすと笑う。



「…どう?元気?……相変わらず、黒川さんと一緒なんだ?」
「一緒です。まあ、…楽しくやっていますよ」


テーブルに運ばれたビールで乾杯し、合わなかった時間の出来事を軽く、報告する。
お互い…相手が嫌いになって距離を取っていた訳ではない。
聞き慣れた声を耳にすれば、あっという間にあの頃の感覚が蘇る。




今風に言えば、きゅん、とする。







posted by 白黒ぼたん at 23:46 | TrackBack(0) | 日記

2025年02月25日

清水先輩・2








「…最初の一年は寮に入ってたんだけど、今はアパート借りてる。
…オヤジ?オヤジとは関係無いよ。
ああ、でも、車、買わせたけどな。はは。

跡なんか継がないよ。今どき、そんなんじゃねぇだろ。
まあ、連絡は取ってるけどさ……」



酒を飲みながら近況報告。
清水が西崎の息子だという事は、やはり気になる所なのだが
一定の距離は空けているようだ。



「俺も、今はちゃんと、仕事してます。
自然派化粧品とか扱うとこで、お店で、代理だけど店長さんですよ。
パソコンで在庫の管理とかも出来ます!」




そう話すイツキは、以前の頼りないばかりの頃とは違う。
多少話は盛っているのだろうが、自信を持ち、目をキラキラとさせ、ニコリと笑う。

清水にはそれが可愛くてならないのだが、同時に、

ここに至るまでの時間を一緒に過ごせなかったことが、寂しくてならない。




「すげぇな。頑張ってんだな。……黒川さんは、それ、ちゃんと認めてくれてるんだ?」

「……んー。まあ…」

「そっか。…仲良くやってんだな……」

「……ん…」



少し変な間が空いて、お互い、空っぽのグラスをくるくる回したりする。

グラスを持つ清水の手は、力仕事をこなしているからか厚みが出て、ゴツゴツしている。
指先に少し、落ちない油汚れがあっても



それすら男臭くて、イツキはつい、見つめてしまう。






posted by 白黒ぼたん at 00:47 | TrackBack(0) | 日記