2015年07月09日

8.珈琲








葬祭場の近くには、そういった集まりに利用できる飲食店がいくつかある。
4人はその内の一つに入り、とりあえず皆、コーヒーを注文する。


けれども、テーブルを囲んだところで、楽しい思い出話が出来るはずもなく、
静かにうつむいたまま、熱いカップに口を付ける。



イツキは、…ちらりと…、向かいに座る母親を伺う。
気配を察したのか、母親は…少し、優しげにほころび…口を開く。


「……一樹、ご飯は、食べてるの?」
「……うん」
「……それは、高校の制服?……ちゃんと、行ってるのね」
「…うん。……今度、3年…」


すると母親の隣に座っていた妹が、指を折り、何かを数えたらしい。

「…嘘、お兄ちゃん、一年、違う。…留年しちゃった?」
「……まあね」


イツキは冗談めかし、笑顔を浮かべながら言う。
イツキの隣では佐野が、ヒヤヒヤしながらその様子を浮かべる。






イツキが、黒川の「女」だと、母親が知っている事を、佐野は知っている。
なぜそうなったのかの経緯は、母親はまるで知らない事も。
どこから、どこまでが話して良い話なのか、見当もつかず、頭の悪い佐野は口を噤む。




「……佐野さんと仰ったかしら…」
「……は、はいっ?」
「…良くして頂いて…、ありがとうございます。…黒川さんにも、お伝え下さいね」



急に話を振られ、あやうく、コーヒーを零しそうになるのだった。




posted by 白黒ぼたん at 00:15 | TrackBack(0) | 日記
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