2015年07月09日

9.小声






それぞれ、聞きたい事は山のようにあるのだけど、お互いが探り合い、なかなか聞き出す事は出来ない。
誰かがトイレに立った時や、並んで歩くほんの隙を見付け、手短に、聞きたいことを聞く。





「一樹。お母さん、あの時は…ちょっと言い過ぎたわね。……ごめんね…」
「……いいよ、もう…」
「ちゃんと…生活出来ているのね。あなたが幸せなら、それでいいんだけど…」
「……うん」


以前、イツキが男に抱かれている写真を見て「汚らわしい」と言って拒絶した母親は、一応、そんなイツキを受け入れたらしい。
この一年、酒に溺れ自滅して行った父親の面倒を見ながら、イツキがこの父親から、家庭から、離れたかったのも無理はないと思ったのか。

それは間違った解釈なのだけど。





「……佐野さんって、お兄ちゃんって、どんな関係なんですか?」
「え?……ええと…、俺は社長に言われて…、付き添ってるだけだから……」
「…ふぅん?」


上目づかいで、何かを探るような由紀の表情は、やはり、イツキに似ていた。
けれど、顔立ちは基本的に…父親似のようで、……残念だと、佐野は思った。


「お兄ちゃん、黒川社長さんの所で、お仕事手伝ってるって、本当ですか?
…都内で、マンションって…いいなぁ。うち、今、2DKのアパートなんですよね」



妹は口を尖らせてそんな事を言って、少し先にいたイツキの事を、ちらりと眺めるのだった。






posted by 白黒ぼたん at 22:04 | TrackBack(0) | 日記
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