2015年07月10日

10.悪癖







コーヒーを飲み終え、小箱を抱え、葬祭場の駐車場へと戻る道。


冗談なのか本気なのか、母親はイツキに「…家に寄る?」と尋ねるが、
イツキは首を横に振り「いい」と答える。

妹は小走りでイツキに駆け寄り、幾分親しそうに腕を掴むと、「お兄ちゃん、今度、お兄ちゃんち、行っていい?」と聞く。

その問いに、イツキは曖昧な笑みを浮かべ「……どうかな…」と言う。




ふいに、母親が、妹の腕を、引く。




それは、イツキにあまり近づいてはいけないという、母親の無意識の気持ちの表れだった。






駐車場で別れを告げ、母親たちはタクシーに乗る。
佐野は一段落とばかり背伸びをしてから、車に乗り、ハンドルを握る。
今から出れば、夜の7、8時には向こうに帰れるだろう。
助手席のイツキは、来た時とそう変わらない顔。悲しみでもなく、何でもなく、ただ宙を見つめているだけだった。



「なあ、イツキ。お前の家族って、マジ、お前の事、何にも知らねーの?」
「…知らない」
「母親は知ってるんだろ?お前が、社長とアレだって……」


運転を始めた佐野には、イツキの細かな表情は伺えない。
つい調子に乗ってしまい失言を重ねるのは、佐野の、悪癖だろう。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
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