2015年11月02日

黒川と金田・最終話






その翌日の昼過ぎに黒川が事務所に顔を出すと
一ノ宮は怪訝そうな表情で、三行半の様な手紙と、札束を差し出す。


「……何かしましたか?雅也」
「うん?」
「海王商事の金田社長からです。組合から抜ける旨の書状と違約金。それとは別に、迷惑料まで包んであります」
「…ああ」


黒川は書状を指先で摘まみあげただけで、もう興味は無いといった風に、鼻で笑う。
それよりも…、事の成り行きを一ノ宮に話していなかった事が、気掛かりだった。
まるで隠していた悪戯を母親に見つけられた時のように、肩を丸めて、視線を逸らせる。




「……一緒に飲んだだけだ。…少し、脅したが。……それだけだ」
「せめて一言、事前にお話し頂けても良いのでは?」
「ああ、悪い、悪い。忘れていたよ」


黒川はソファに座り、一ノ宮に顔も向けずに、手をひらひらと振ってみせる。
その様子から謝意はまるで感じられずに、一ノ宮は大きなため息を付く。




「もう少し、慎重に動かれた方がよろしいですよ。あなたは、イツキくんの事に関しては、何かと歯止めが利かなくなります。」


部屋の隅の小さな流しでコーヒーを淹れながら、一ノ宮は一応、そう諭す。
言っても聞かない事は解っていたけれど、言わない訳にもいかないのだろう。


コーヒーカップを黒川に手渡す。
黒川はそれを受け取りながら、半ば不機嫌に「…はい、はい」と返事をする。

それでも珍しく反論もせずに、黒川は、大人しく、熱いコーヒーを啜るのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:13 | TrackBack(0) | 日記
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