2015年12月21日

午後のニュース






「……なんだ、スーツで来たのか。仕事じゃないぞ?」
「…だって、ちゃんとした格好で来いって…」


ある日、イツキは黒川に、事務所に呼び出される。
あまりこの界隈を一人で歩かせたくなかったはずだが、それももう、忘れてしまったのか。

事務所には黒川だけしかおらず、まるで会社員のようにデスクで書類に埋もれていた。
耳と肩の間にケータイを挟み、誰かと連絡を取りながら、パソコンまで弄っていた。


「まあいい。すまんが、ココに行ってくれ。滝田というジジイがいるから、金を貰って来い。話はついている」


そう手短にイツキに指示を出すと、住所の書かれたメモを渡し、またすぐに自分の仕事に戻る。
どうやら本当に、猫の手も借りたい程、忙しいらしい。

猫よりは、イツキの方がマシ、といった所か。




事務所の前からすぐタクシーに乗って、言われた場所に向かう。
30分ほどで到着したそこは、小さな町工場といった感じだったが…それにしては静かで人の気配もない。
何度か声を掛けると、ようやく奥から初老の男が現れる。
黒川の言う通り話はついているようで、男は大きなため息を付きながら、イツキに分厚い封筒を渡し、また奥へと戻って行った。

その背中はいやに小さく、そのまま、消えて無くなってしまうのではないかと、思えた。




事務所に戻り、黒川に封筒を渡すと、黒川は礼のつもりか手をひらひらと振る。
それでも、自分の仕事の手をを止める気はないらしく、ケータイに向かって半ば怒鳴り声で話を続けているので、

イツキは諦めて、そのまま、事務所を後にするのだった。





そして、次の日、
午後のニュースで、
その、滝田という男の町工場が火事になり、男も亡くなったと、知った。




posted by 白黒ぼたん at 21:50 | TrackBack(0) | 日記
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