2016年02月09日

ちょっとした話・2






「……イツキくん?……イツキくん!」


女性がイツキに気付き、思わず名前を呼ぶものだから、イツキはここから立ち去れなくなる。
しかたなく傍に寄り、「……どうしたの?」と声を掛ける。

女性は、去年同じクラスで、何度か話もしたことがある。知り合いよりは、知っている感じだが、友達、という程ではないと思う。
名前は、確か、沼原、だったか。
活発でいつも笑顔で、梶原と賑やかに話をしている印象だったが、今は眉間にしわを寄せ、泣き出しそうな顔をしていた。

助けを求めるように、イツキの上着の袖を、きゅっと掴む。



「…何、アンタ。この子の知り合い?カレシ?」


沼原に絡んでいたチンピラが、いぶかしげにイツキを眺める。
こんな類の男には慣れているイツキだったが、事情が分からない事にはどうしようもない。
しかも男の後ろには数人仲間がいるようで、なんとなく、取り囲まれてしまう。


「…どうしたの?沼…原…さん?」
「どうしよう。…あたし達、解んないの…」
「何が?」
「急に…怒られて…、……どうしていいのか、解らないの……」


イツキという知り合いに合えて少し気が緩んだのか、沼原の目から涙が零れ落ちる。
横にいたもう一人の女の子は…、こちらも学校で見かけたことのある子だったが、すでに泣きじゃくり話にならない模様。



「……えっと。……俺、この子たちの…、知り合いです。……何か、あったんですか?」
「ぁあ?…どうもこうもねぇよ。このお嬢さんたちがね、俺らの仕事の邪魔、したんだよ!」


男は凄味を効かせて、イツキに詰め寄る。
イツキは、まだ若い男の荒い鼻息を聞きながら、男のジャケットの裏地が紫色のサテンなのを見付けて、…安っぽいな、などと、思っていた。




posted by 白黒ぼたん at 20:19 | TrackBack(0) | 日記
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