2016年02月12日

ちょっとした話・5







「三十万、渡せば良いんですね?…俺、払います」
「……ぁあ?」


イツキの話に男は眉をしかめ、イツキを威嚇する。
けれどイツキはそんな態度に臆する事も無い。


「持って来るので、この子たち、帰してあげて下さい」
「おーおー、格好良いこと言うね、カレシ。そんな事言って、自分だけ先に逃げる気じゃねぇのか?」
「逃げません」
「…よくよく見れば、カレシも可愛い顔してるね?…そういう仕事、あるよ?紹介しようか?」


そう言って、男は周りの男たちと一緒に、いやらしく笑う。
最初から、イツキたちに金を払えるとは思っていない。
どうにかして、怪しげな仕事の契約書にサインをさせようとしているのだ。


「…お金、払えばいいんでしょ?…じゃあ、持って来て貰えばいいんでしょ!?」


見慣れた笑みに、イツキは半ばヒステリックに声を荒げる。
そしてポケットからケータイを出すと、どこかに電話を掛け始める。

男たちは多少、驚き…「何だ?ママに泣きついちゃうのか?…騒ぎになると、困るのはお前らだぞ?」などと言ってみる。
どうやらこの辺りから薄々、目の前にいる少年が普通ではないと感じ始めていた。



「……もしもし、……一ノ宮さん?」



イツキが電話を掛けた先は、一ノ宮だった。

佐野では、すぐに金を持って来られないかも知れないし、火に油を注ぎ、大騒ぎになるかも知れない。

…黒川では、逆に、自分が困る事が起きるかも知れない…と、思ったのだ。



posted by 白黒ぼたん at 23:58 | TrackBack(0) | 日記
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