2016年05月18日

一ノ宮の小言







「…イツキの事を、どうでも良いと思っている訳じゃ無い。横浜が忙しいのはお前だって解っているだろう」
「そうですが…」
「金も、自由も、遊ぶ男も与えている。十分だろ?」
「そうですが、雅也。…いや、そうではなくて…」


仕事も一段落つき、黒川と一ノ宮は馴染みの焼き鳥屋で一杯やっていた。
カウンターしかない狭い店。コップになみなみと注がれた日本酒。
好みの串を何本か頼み、酒も進んだ所で、いつものように一ノ宮がイツキの処遇について尋ねる。


「…あの子は…、そんな物を欲しがっている訳ではないでしょう?」
「…じゃあ、何だよ。…どうせ暇になると、勝手に相手を見つけて来るんだぜ?」
「いや、…そうではなく。…ああ、もう…」


グラスに口を付け、半分笑いながら話す黒川に、何をどう話せば良いのか一ノ宮自身も解らず、困る。
自分も酒を飲み、大将に次を頼み、皿に残っていた最後の軟骨を食べる。


「………食ったな、一ノ宮…」

「忙しいなら、忙しいで、きちんと話せば済む話でしょう。そうやってはぐらかしてばかりでは、いつかしっぺ返しが来ますよ、雅也。
…もう少し、あの子を大事にしないと。…ちゃんと向き合わないと…」

「…イツキの事は、考えている。……大事にもしてやってるさ」


黒川はそう言って、大将から新しいグラスを受け取ると、…何故か、小さく笑って…、酒に口をつけるのだった。




posted by 白黒ぼたん at 21:13 | TrackBack(0) | 日記
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