2016年07月09日

出来事・後編







イツキはそこを足早に立ち去り、男を巻くように、人混みの中に紛れていく。
特に、誘う仕草も、無駄な色気も垂れ流していないはずなのに、どうしてあんな声を掛けられるのだろうかと、不思議に思う。
一応、警戒して、細かい路地を何本も曲がる。
うっかりすると自分が迷子になりそうで、後ろを振り返り、来た道を確認し…、…この先を左に曲がれば知っている道に出るはず、と


歩き始めた時、突然、腕を掴まれ…建物と建物の間の、細い隙間に押し込まれた。


「…逃げる事、ないでしょ?…君、そういう子、でしょ?」


それは先ほどの男で、イツキの手首を掴んだまま、身体を寄せてくる。
すでに自分の中で始まってしまっているようで、高揚し、息遣いも荒い。
連れ込まれたスペースはごみ置き場のようで、新聞の束や、ポリバケツがいくつか並んでいた。

男が体重を掛け身体をイツキに預けると、足をとられ、二人で転ぶ。
その弾みで、男の唇がイツキの頬に当たるのだが、幸い、掴まれていた手首から手が離れる。


「…ば…バカっ…、死ねっっ」


と、イツキは、最大限の暴言を吐き、慌てて起き上がり、転がるように走り去るのだった。






男の唇が当たった頬を、念入りに、洗う。
風呂場から出たイツキは、憂鬱な溜息を付きながら、自分の持ち物を確認する。
せっかく買ったシャツは、どこかに置き忘れてしまったようで、
残っていたのは、ぺしゃんこに潰れた、メロンパンだけだった。



おちまい
posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
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