2016年07月12日

坩堝・1







一学期最後の日。
講堂での集会も終わり、教室へ戻る。
高校三年の夏ともなれば、みな、浮かれてばかりはいられないけれど
それでもどこか開放的な気分になる。


『……気を引き締め、自戒すること。さまざまな誘惑から、強い意志をもって自身を守るように…』


そんな教訓めいた集会の言葉も、喋っている当の本人…加瀬の姿を見てしまうと、ただの悪い冗談にしか聞こえなかったが。





一学期の成績表を受け取り、イツキは、溜息をつく。
悪くはないのだが、良くはない。
自分の頑張り具合からは、もう少し良くても…といった感じなのだが、それでも
進級さえ危ぶまれた去年の状況を思えば、はるかに、マシなものだった。

横から、チラリと見た梶原が、笑う。
『それでもすごいよ。3年になると、回りも上がってくるんだしさ。お前、良くやってるよ。偉いよ』
と、褒める。
普段、褒められる事の無いイツキは、そんな言葉ですら、くすぐったく、嬉しくなる。

機嫌が良くなったところで、午後の遊びを誘われ、つい、快諾してしまう。




それくらいの、小さな幸せは、許されるはずだと思う。


いや、逆に。


そんな幸せがあるから余計に、この後に訪れる混乱の坩堝が、酷いものに感じられる。




posted by 白黒ぼたん at 23:05 | TrackBack(0) | 日記
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