2016年07月21日

坩堝・8







「お父さん、あんな風だったから、全然働いてなかったし、お母さんも、今は、朝の掃除と、夕方はスーパーで働いてるけど…、全然だし。
ウチ、2DKのアパートだし、ケータイ持ってないの、クラスで由紀だけだし。
…由紀にも、何か、出来る事ってないかなぁ…。黒川さん、色んな仕事、知ってるんでしょ?」



妹は枕がわりのクッションを胸に抱えながら、そんな事を言う。
その言葉の意味が、イツキには全く理解できず、しばらく、瞬きをすることさえ忘れてしまった。



「……由紀。……中学2年って、さっき言ってたじゃん。……そんな子供に、出来る仕事なんて、……無いよ」
「だから、黒川さんに聞きたいんだよ。…由紀みたいな女の子が出来るコト、なんか、無いかなぁって」


妹はそう言って、ニコリと笑う。
それはどこか不自然で、わざと作られた色気のあるもので、あまり気持ちの良いものではない。
妹は、そういった媚びを売ることを、いつの間に覚えてしまったのだろうか。
そして明らかに、それを生業とする仕事があることも、知っているのだ。

イツキは眩暈を起こし、倒れそうになってしまう。



「由紀。……マサヤは…、黒川さんは、……良い人じゃないよ?
父さんの仕事だって、…人に言えるような仕事じゃなかったの、知ってるんだろう?
黒川さんは、…その上にいた人だよ?……普通の人じゃ、無いよ?」

「解ってるよ。でもお兄ちゃんだって、一緒に仕事、してるんでしょ?由紀も…お金、欲しい……」


「馬鹿ッ……、ふざけた事、言うんじゃない!」






posted by 白黒ぼたん at 21:39 | TrackBack(0) | 日記
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