2016年08月05日

坩堝・19







スタジオと言われた場所は、まあ、普通のマンションの一室のようだったが、
置かれているどの家具も真新しく、明るく、綺麗な場所だった。
妹はカフェのようなテーブルに案内され、そこで、南屋が手掛けているという雑誌などを見させられる。

「コーヒーでいい?オレンジジュースとかもあるよ?…ああ、それはちょっとしたアンケート。名前だけ、書いておいて貰えるかな?」

男は気軽に、気さくに、妹に紙切れを渡し、そこに名前を書かせる。
その裏面の、小さな文字に妹が気が付く前に、それを懐にしまう。

「…エリナちゃんって…、そうそう、読者モデルの子…、その子と先月、ハワイで撮影があってね……」

どこかで見たことがあるような女性が、白い砂浜でポーズを取っている写真を眺めながら、妹はオレンジジュースを飲む。
その姿に、…いつから部屋にいたのか、もう一人の若い男がカメラを向ける。

「…ああ、気にしないで。ちょっとしたカメラテスト。…やっぱり、肌、キレイだね。…いいね」

お世辞でも褒められて悪い気はしない。
南屋と若い男はカメラの画面を覗き、そう話し、妹は、照れ笑いを浮かべていた。









「…お客さん、どうしますか?駅前で良いんですか?」

タクシーの運転手に声を掛けられ、イツキは弾かれたように、窓の景色に目をやる。
初めて来る場所で検討も付かない。一ノ宮に聞いた住所のメモ書きと、外を、交互に見遣る。

「……駅の…、北口の方って…。ロータリーがあるとこ、右…だって。
…業務スーパーの看板があって、隣りの…、あ……、止まって、止まって!」

道を数本入ったろころで、イツキは声を上げる。
視線の先のコインパーキングに、見慣れた黒川の車が停められていた。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/176369379
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
最近のコメント
足りないイツキ by はるりん (10/15)
誘惑・5 by ぼたん (10/13)
誘惑・5 by A (10/12)
誘惑・5 by はるりん (10/12)
誘惑・3 by ぼたん (10/11)
誘惑・3 by はるりん (10/10)
誘惑・2 by ぼたん (10/09)
誘惑・2 by はるりん (10/09)
一応、冗談 by ぼたん (10/04)
一応、冗談 by はるりん (10/03)