2016年08月08日

坩堝・20







教えられた住所にあるビルは、特に看板などは出ていなかった。
一階部分は店舗のようだったが、ほぼシャッターが下り、自動販売機だけがずらりと並ぶ。
その脇に、小さな入り口を見つけ、中に入る。
エレベータに乗り、一ノ宮に言われた三階に上がると、そこは人の気配もないフロアで…イツキは、不安になる。
いくつか見える扉のどれかに、妹がいるのだろうか。一つ一つ、開けてみなければ解らないのだろうか。

立ち止まると、涙が出そうになる。けれど、そんな暇は無いと唇を噛みしめる。




「……先に戻ります。……社長にはこちらから連絡を入れます。……あと」

丁度その時、話声が聞こえ、扉の一つが開く。
中から出て来たのは、リーで、イツキは「あっ」と短く叫ぶ。
思わず駆け寄り、リーの袖口をぎゅっと掴む。


「リーさん、マサヤは?…妹は!?」
「……は?」


リーは驚き、咄嗟に、イツキに掴まれた腕を振り払う。
イツキはよろけ、転びそうになりながら、一歩後ろに下がる。


「…妹は?」
「ああ、あなたですか。…イツキくん」
「妹はどこ?ねえ、マサヤは!?」



イツキは開いたままの扉から部屋の中を伺うのだが、そこにいるのは、イツキの知らない女性が一人。
イツキは、この時になってもまだ、妹を連れて行ったのは、黒川だと思い込んでいた。





posted by 白黒ぼたん at 22:44 | TrackBack(0) | 日記
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