2016年08月09日

坩堝・21







「マサヤはどこ?」
「社長は、こちらにはいらっしゃいませんよ?」
「妹…。女の子、連れて来たはずなんだけど…。どこに行ったか、知らない?」
「妹さんなら、上で面接中です」


慌て、捲し立てるイツキに対し、リーは事もなげにそう答える。


「……上…って?」
「この上の階です。スタジオがありまして……」


リーの言葉の途中で、イツキは踵を返し、今度はエレベーターではなく、階段を駆け上がる。
ありがたい事に、最初に目についた扉の横に、小さく「スタジオ・A」と表示があった。
取っ手に手を掛け、力任せにガチャガチャやるも、当然、開くわけもなく。
扉をバンバンと叩き、チャイムを連打し、もう一度扉を叩き、妹の名前を叫ぶ。



今日のイツキはきちんとした確認もとらず、いささか、性急過ぎ、激しすぎるのだけど。
その、ほんの、5分や10分の差で、人生の全てが変わってしまう事を知っていた。



実際、妹も、イツキの到着があと数分遅ければ
一生、消すことのできない傷を、負うところだった。








「……いやーっ、いやいや、こんなの、やーっっ」


カメラテストと称し、ビデオカメラを向けられ、最初の内は笑顔などを見せていた妹だったが、
次第に南屋が自分に近寄り、無駄に耳元で囁くことに、違和感を覚える。
止めて欲しいと手で払うも、逆にその手を掴まれ、抱き付かれる。
ついでに胸を触り、「小さい胸だな、マニア向きだな」と言い、下品に笑う。




posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
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