2016年08月14日

坩堝・26







『……もう、帰って良いですよ』

と、厄介者を見るような視線で秋斗に言われ、イツキは…
とりあえず、頭を下げて、その場を立ち去る。
とにかく、妹をこの場から離したくて…自分の世界から遠ざけたくて、それだけを考えていた。
事務所のビルを出て、足早に駅前へ向かう。
妹は、心底怖い思いをしたようで、まだ半分、泣きべそをかいている。
……その位、思ってくれた方が良いのだと、イツキは思う。


「……解ったでしょ?由紀。……黒川さんの周りなんて、あんな事、ばっかりだよ。
いくらお金が稼げたって、一生残る傷が付くの、嫌でしょ?」


一歩先を歩くイツキが振り返り、そう言うと、妹はこくん、こくんと頷く。
駅前のロータリーに入ると、タクシー乗り場の列に並ぶ。


「……一人で、帰れるね?……ちゃんと、帰るんだよ?」
「………お兄ちゃんは…?」
「俺は、一緒に、行かないよ?」
「………お兄ちゃんは、黒川さんの傍で、……どんなコト、あったの…?」


そう尋ねる妹に、イツキは静かに首を横に振る。
何も言わない事が、一番の説明なのだと、…妹が解るようになるのは、もう少し大人になってからだった。



タクシーが目の前に停まるとイツキは運転手に十分な金を渡し、実家の場所を告げる。
それからもう一度、妹に、二度とこんな事をしてはいけないと諭す。
妹は、『ごめんなさい』と素直に謝り、おそらく本当に、反省したように思える。
そして、タクシーが発車するのを見届け、イツキはようやく、一つ、問題が片付いたと溜息をつく。




そして、残りの問題を片付けに、来た道を引き返す。




事務所のビルの、少し先にある、喫茶店。




店内に入ると、奥の席に、先刻の男…南屋が、いた。




posted by 白黒ぼたん at 23:48 | TrackBack(0) | 日記
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