2016年09月05日

理由・1






それは、もちろん、イツキにも解っていた。
今回は、黒川の傍にいる時間が、長すぎると。

トラブルの後の黒川は奇妙に優しく、ついつい、流され、ほだされてしまうのだけど
かと言ってそれで十分、満たされた幸せ…という感じでもなく、どこか何かヒリヒリとした感覚が、胸の奥に残る。

それが何なのか、本当は、イツキにも解っているのだけど
あえて、気持ちに、言葉を付けない事にしていた。




夕方、イツキは黒川の事務所で一人、留守番をしていた。
適当に、床を箒で掃いたり、机の上を水拭きしたり、トイレの掃除までする。
……戻ったら、夕食には寿司屋に行くと言っていた。
別にそれが楽しみという訳でもないが、とにかくイツキはあちこちを片付けながら、黒川の帰りを待っていた。


扉をノックする音がする。
黒川や一ノ宮なら、ノックをする必要はない。
イツキは少し身構えて、扉へ向かう。


「……はい?」
「あー、黒川社長、いらっしゃいますか?」
「今、留守です」
「中で待たせて貰ってもいいですかね?」
「駄目です」


扉を開けることなく、イツキはまるで小学生のような応対をして、相手を拒む。


「あー…。そうですか…。では…、また出直しますね…。
私、横浜でお世話になっている『サウス・ハウス』の南屋と申します。
名刺、置いておくんで……」



男の自己紹介に、思わず、イツキは扉を開けてしまった。




posted by 白黒ぼたん at 00:14 | TrackBack(0) | 日記
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