2016年09月14日

理由・最終話







うっかりすると涙が零れそうになる。イツキは、立っているのも精一杯だった。
美味しいはずの日本酒が、変なトコロに、入ってしまった。
あんな風に、黒川に、秋斗のことを尋ねるつもりは無かったのに。

心の奥底に隠して、隠して、誤魔化して来た事が、滲み出てしまった。


トラブルの後の優しい黒川から離れがたかった理由は、知っていた。
不安から、目を背けたかった。…それが、自分にとっての不安なのだと、気付きたくなかったのだ。







「…轢かれるぞ」


店の前でイツキがタクシーを止めようと、道路に、一歩足を踏み出したところで
後ろから黒川が、イツキの腕を引いた。

イツキは少しだけ後ろを振り返り、掴まれていた腕を、……払う。


「…それも、いいかも。もう、変な事、考えなくて、済むし…」
「あまり俺を困らせるなよ、イツキ」
「困ってるのは、俺だよ」



そう言って、少しだけ笑うイツキを、黒川は背中から、抱き締めるのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:03 | TrackBack(0) | 日記
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