2017年01月12日

気の毒な梶原







梶原がイツキと連絡が付いたのは、その日の、夜になってからのことだった。
心配して何度か電話をしたものの、イツキの電話は相変わらず気まぐれで、本当に、その向こうに本人がいるのか、いつも不思議に思う。


『…なに?』
「え…、いや、あの…。お前、すぐ帰っちゃったし…、どうしたかなって…」
『ふふ。…べつに。…なにも、ないよ……』
「…イツキ?」


いやに甘い、舌ったらずな口調。耳元が溶けそうな気がする。


「……あのさ、俺、ちょっとキツイ事、言ったかなって……」
『ん?……なに?』
「いや、お前が美容師になりたいって話…。……無理、みたいな事、言っちゃって…」
『ああ…、ふふ。…まあね。…本当の事だもんね…、ふふ…』


切れ切れの言葉に、ようやく、梶原も疑いを持つ。


「……イツキ。……お前、今、酔っぱらってる?」
『……んー?……ちょっとだけだよ…』
「マジかよ。…今、どこにいるんだよ?……誰と……」


『……誰と電話?、…イツキちゃん』



イツキは、どこかで、酒に酔っているらしかった。
梶原はケータイを耳にぴったりと押し当て、どうにか、その状況を探ろうとする。
イツキの吐息と、カサカサと衣擦れの音と、その奥から…

イツキを呼ぶ、男の声が聞こえる。



「……イツキ、お前、大丈夫なのかよ?」
『ん。大丈夫。梶原も気にしないで、俺のこと、ね。大丈夫だから…』
「イツキ。…おい、イツキっ」



梶原の言葉の途中で、電話はプツリと切れてしまった。
気の毒な梶原。

こんな事なら、電話など、繋がらない方が余程マシだったかもしれない。



posted by 白黒ぼたん at 23:21 | TrackBack(0) | 日記
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