2017年03月07日

馬鹿な子・16






「はは。冗談だよ、センセ。イツキが世話になっているからな、今までの分はチャラだ」



黒川は両手を広げ、笑いながら、そう言う。
それはとても冗談とも、楽し気な話とも思えなかったが。

それでも加瀬はこの場から逃げられると、壁を這うようにして、黒川から離れる。


「…そ、そうか。…じゃ、じゃあ、私はこれで失礼するよ…」
「ああ。後ろから刺されないように気を付けて帰れよ」
「は、は…。そうするよ…」
「……センセ?」


もう少しで部屋を出られる加瀬を、黒川は呼び止める。
…おもむろに、…スーツの内ポケットに手をやるものだから、加瀬は本当に、そこから刃物でも出てくるのではないかとすくみ上る。

けれど、出て来たのは煙草で、黒川は静かにそれを口に咥える。




「………次は、無いぜ?」



煙草に火を付け、煙を吐き出し、黒川はそう言う。
加瀬は返事の代わりに引きつった笑みを浮かべ、一瞬だけ、イツキを見遣ってから……、ホテルの部屋を出て行った。





バタンと扉が閉まり、少しの間、静寂が訪れる。

「……さてと」

黒川は吸っていた煙草をテーブルの上の灰皿に押し付け、くるりと向きを変え、寝室に向かう。
ベッドの上ではイツキが、蛇に睨まれたカエルのように身動き一つ出来ず


黒川の、審判を、待っていた。





posted by 白黒ぼたん at 23:41 | TrackBack(0) | 日記
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