2017年08月08日
半分
「…何?一人で来たの?…ああ、黒川くんの車ね。何、彼、帰っちゃったの?
まったく、顔ぐらい出して行けばいいのにね…、まあ、話す事もないか…はっはっは」
大きくもなく小さくもなく、都心の、洒落たホテルのロビーで
小野寺はイツキを出迎える。
少し緊張した面持ちのイツキの肩を気軽にぽんぽんと叩き、軽口を叩き
パーティーの会場へと案内する。
「そんなに硬くならくていいよ。ふふ。可愛い君を横に連れて歩きたいだけだよ。
別に、何もしなくていい。
本番はナシって聞いているだろ?……それとも、残念?」
黒川と同じ、くだらない冗談を言い、小野寺は部屋の扉を開ける。
薄暗い室内。パーティーと言うよりむしろ、クラブやライブのような雰囲気で
すでに始まっているバンドの生演奏に合わせ、それぞれ、酒を飲みながら身体を揺らしている。
小野寺はすれ違うボーイからカクテルグラスを二つ取り、一つをイツキに渡す。
「はい、乾杯」
グラスをカチンと鳴らして、小野寺は、実に紳士的に微笑む。
そんな笑顔で気を許すほど、イツキは馬鹿ではなかったけれど
どうなっても良いと、口当たりの良い甘いカクテルを勢い煽ってしまったのは
半分は、喉が渇いていたためと、もう半分は
自分を放り出した黒川への、当てつけのようなものだった。
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