2017年10月05日

忘れ物







一ノ宮が事務所で細かな仕事を片付けていると、イツキが顔を出す。
最初は扉を少しだけ開け、中をキョロキョロと伺い、
「……マサヤ、…いる?」と尋ね、一ノ宮が「いいえ」と答えると
安心したように微笑んで、中へと入って来る。


「どうしましたか?」
「……これ。……マサヤの忘れ物」


ぶっきらぼうにイツキはそう言って、紙袋を差し出す。
そこには先日、イツキの部屋で黒川が脱ぎ捨てた、スーツの上着が入っていた。


「…おや。イツキくんの所に行きましたか。……何か話は出来ましたか?」
「なーんにも。突然来て、……勝手に帰っただけだよ。……これ、あると、取りに来ちゃうかも知れないから、持って来た…」


そう言って、笑う。
一ノ宮がコーヒーを勧めたのだが、黒川が戻ってくると厄介なので、すぐに帰ると言う。


「……まだ、駄目ですか…。……多少は、反省しているようですけどね…」
「まさか! 全然だよ。……この間も『仕事』だったし。…結局、俺は、そういう扱いって……事でしょ……」



少し寂し気なイツキの口調。
…本当は、そんな事を望んでいるわけではないと、自分でも知っている。

あの日、黒川に、『昔のように、ただの商品として扱えばいい』と言ったのは、半分は本当で、半分は嘘で。




「……『仕事』するって…、自分で言っちゃったから…、いいんだけどさ。ただ、ちょっと…さ、……程度ってもんがあるじゃん……。

……小野寺さんは、……嫌い。………それぐらい、ワガママ言っちゃ、駄目だったかな……

ちょっとだけでもマサヤに……、気にしてて欲しかっただけなんだ………」





イツキはそれだけ、独り言のように呟いて、一ノ宮にぺこりと頭を下げて、事務所を出て行った。



一ノ宮は深いため息を付いて、すれ違ってばかりの二人の今後を、案じた。







posted by 白黒ぼたん at 20:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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