2017年10月11日

生活臭







ある日の夕方、イツキは事務所の近くの、二人で使うマンションの部屋に来ていた。
黒川と距離を取る様になって以降、ここに来ることは無かったのだが、何枚かのシャツや下着を置きっぱなしにしている事が気になっていた。
辺りに黒川の姿が無いか、部屋の明かりは付いていないか、伺ってから中に入る。


一番最初に気になったのは、部屋の、黒川の煙草の臭いだった。
久しぶりだから余計にそう感じたのかも知れないが、テーブルの上の灰皿が、山盛りになっているのを見て、納得してしまう。
そう散らかっている訳ではなかったが、それでもあちこちに、ビール缶やコンビニのビニール袋が放ってあって
半ば無意識ながら、それらを片付けてしまう。



忘れ物のシャツは洗濯機の底に、皺くちゃのまま入っていた。
湿ったバスタオルは、いつ使ったものなのか、カビ臭い。

洗面所にはコンセントに刺さったままの電気シェーバー。スタンドには歯ブラシが二本。
バスルームの換気扇は回りっ放し。……ボディーソープの残りが半分だった事を思い出す。





自分が生活していた場所への愛着は、勿論、あるだろう。
もしかして、もう二度と戻らない…、そんな可能性もあることに今、気が付いて…愕然とする。




「………マサヤ…」



声に出して名前を呼んでみると、鼻の奥がツンと痛くなる。
二人で過ごす時間が嫌なものばかりでは無かったのは、イツキにも、解っていた。





posted by 白黒ぼたん at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/181257053
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
最近のコメント
足りないイツキ by はるりん (10/15)
誘惑・5 by ぼたん (10/13)
誘惑・5 by A (10/12)
誘惑・5 by はるりん (10/12)
誘惑・3 by ぼたん (10/11)
誘惑・3 by はるりん (10/10)
誘惑・2 by ぼたん (10/09)
誘惑・2 by はるりん (10/09)
一応、冗談 by ぼたん (10/04)
一応、冗談 by はるりん (10/03)