2017年10月13日

空っぽの左手








一人、マンションに戻った黒川は、すぐに変わった様子に気が付いた。
廊下に散らばっていた洗濯物や、流しの洗い物が片付けられている。



「……イツキ、いるのか?」



玄関に靴もなく、部屋の明かりも付いていなかったのだから、居るはずがないだろうと思うのだけど
一応、名前を呼び、風呂場や寝室の扉を開け覗き込む。

そして、やはり、居ないと解ると軽く笑い、帰って来た時よりも疲れた面持ちでソファに沈み込んだ。




電話が鳴ると、慌てて出る。




「………なんだ、一ノ宮か…。………ああ、いや、何でもない……。ああ、それで……?」



耳と肩にケータイを挟み、黒川は煙草に火を付ける。一ノ宮からの仕事の報告に適当に返事をしながら、一服する。
ここ数日、黒川の周りは俄かに忙しくなっていた。
横浜では新しいビルをテナントごと買収する話が進んでいたし、新手の風俗の企画などもチラホラ。
そして、まるで別件の問題も抱えていた。



「……叔父貴の所には明日にでも顔を出す。……少し、カネを用意しておけ……」



あまり良くない案件のようで、深く溜息を付きながらそう話す。
叔父貴は池袋界隈を仕切っている豪傑で、黒川とは程よい距離感を保っているのだが、最近では新興勢力に圧されトラブルを抱えているとも聞く。
仕事上、手を貸せることがあれば、勿論、手伝うのは当たり前なのだが
逆に、トラブル先から、目を付けられてもかなわない。




電話を切って、黒川は、もう一度深く溜息を付く。
そして無意識に左の手の平をながめ、また引っ込めるのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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