2018年03月22日

小話「一ノ宮」







一ノ宮は案外、一般的な生活を送っていた。


自宅は事務所から車で10分程。歩いても30分程の距離だろうか。
幹線道路沿いの古いマンション。南向きの2LDK。3階の部屋は窓を開けるとすぐに、高速道路の防音壁が見えるのだと言う。

スーツ姿の一ノ宮は、物腰も穏やかで、そう、怪しい人物には見えない。
昼過ぎに出掛け、明け方に戻るのだが、都心の場所柄、そういう仕事なのだろうと思われるだけ。
ゴミ出しのルールも守るし、マンションの他の住民と、挨拶もする。


部屋は、必要最低限のものしか置かない、ごくごく、シンプルな内装だった。
自炊もほとんどしない。あまり、食事に興味は無いらしい。
興味が無いのはそれだけに限らず、人付き合いや、娯楽や、諸々。

おおよそ欲が無い。




それでも別に、寂しい、つまらない人生、という訳ではない。
その静かさが一ノ宮には合っているし、すぐ身近に、欲のままに生きる男がいるお陰で、飽きる事はない。

正直、黒川の行動を見ているだけで、お腹が一杯という所だろうか。





仕事を終え、部屋に戻る。
シャワーを浴び、明日に必要な物を整える。

部屋の明かりを落とし、小さなグラスにバーボンを入れ
観葉植物に霧吹きで水をやり、葉を、一枚ずつ丁寧に拭く。




その時間が、一ノ宮は好きだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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