2018年04月09日

うそ







日本酒は程よく身体に回り、ふわふわと思考が定まらない頃。
時間は夜の8時。
台所に立ったまま、三杯目のグラスを手に持つイツキは、一見、ただ、水を飲んでいる様にも見えて


黒川は、ちらりと横目で見ただけで素通りし、リビングに入る。



「……早いね、……マサヤ…」
「書類を取りに来ただけだ。……封筒が…、ああ、コレコレ。すぐに事務所に戻る」
「……行っちゃうの?」
「西崎を待たせている」


封筒を手にした黒川はすぐに玄関へと引き返す。
どうやら本当に急いでいるらしく、イツキの様子には気付かない模様。

イツキも、黒川を追って、玄関へと向かう。
身体を斜めにし、ぺたんと壁に頭を付け、靴を履く黒川を眺める。



「………行っちゃうんだ…」
「明日までは帰らない。…夜には出掛けるから支度をしておけ。……黒スーツだ」
「………仕事?」
「いや、違うが…、……まあ、連絡する。……じゃあな」



それだけ言うと、イツキの頭をぽんぽんとやって、そのまま、部屋を出ようとする。






イツキは、自分から離れていく黒川の手を、咄嗟に掴み、腕にしがみつく。





「………なんだよ?」
「俺。……今日はマサヤと一緒にいたい」
「…ハァ?」
「………なんてね。……うそ…」



そう言ってイツキは黒川を見上げ、小さく笑う。





posted by 白黒ぼたん at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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