2018年04月10日
攻防
「……行ってらっしゃい」
イツキは黒川の腕を掴んだまま、そう言う。
黒川は身体を半分玄関の扉に向け、もう片方の手をドアノブに掛け……
もう一度、イツキに向き直る。
そしてようやく、「…何か、あったか?」と尋ねる。
一歩、イツキに近寄り、表情を探る様に顔を覗き込む。
別段変わった様子もないのだけど、…息が若干、…酒臭い。
「……飲んでいたのか?……酔っ払いめ…」
「…だって。ヤなコトあったんだもん」
「何だよ?」
「……大したコトじゃないよ。……行きなよ、マサヤ。……急いでるんでしょ?」
あまり、呼気を嗅がれたくないのか、イツキは顔を背けてみせる。
それはまるで、何かを隠しているのか、拗ねているようにも見えて、余計に気になる。
顔を、こちらに向けようと、黒川は掴まれていた腕で、イツキの身体を引き寄せる。
けれど意外にイツキは身体を強張らせ、逆に、黒川を押し出すように腕を突っぱねる。
「……ほんとに。……大したことじゃ、ないよ。……うそ、うそ。……行って、マサヤ。……俺、何でもないから………」
そう言ってイツキは、明らかな作り笑いを浮かべ、黒川を扉に押しやる。
今になって酔いが回ったか、呂律の回らない口調が、哀れを誘う。
これで『そうか、解った。じゃあな』などと、簡単に引き下がれるハズもないのだけど。
当のイツキは自分が、黒川を惑わし誑かしているなどとは、露にも思っていないのだ。
タチの悪い子だ…笑
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