2018年07月10日

片隅の最奥








「……俺、先に帰ってて、いい?」
「すぐ終わる。待っていろ」
「………はぁい」



黒川は西崎はソファで向かい合い、テーブルに何やら書類を広げ話し込んでいた。
する事の無いイツキは、デスクの、いつも黒川が座る椅子に座り、暇そうに背もたれをギシギシ鳴らしていた。



「……社長」
「何だ」
「……気、使いすぎじゃないですか、アレに…。甘やかすと、調子に乗りますよ?」


西崎は立てた親指をイツキに向けながら、小声で、そう言う。
とは言っても、その声はイツキにも聞こえている。聞こえる様に喋っているのだ。


「まあな」
「…朝から晩まで見張ってる訳にもいかんでしょ?…それなら、いっそ、部屋に閉じ込めておけばいいんですよ」
「…まあな。…ふふ」


それも名案だと言う風に、黒川は笑い、イツキを見遣る。
イツキは少しむっとした様子で、唇を尖らせる。



「まあ、池袋も、もうじき落ち着く。それまで無駄な揉め事は、避けたい。
…向こうのガキは、動きが派手だからな…。付き合ってられん……」
「結局、話し合いでカタが付きそうなんですか?」
「ああ。嶋本組の会長が出て来てな。…今、仲裁中だ……」





イツキは椅子に深く腰掛け、黒川達には背を向けながらも、話に傍耳を立てていた。
向こうのガキ、というのは、自分を襲った笠原という男のことだろう。
黒川の叔父貴との間で、権力争いがあったようだが、どうやら、収束しそうだという話。



そうなったら、もう、笠原は自分には手を出して来ないのだろうか。







「……ん。……良かったじゃん。……いい話じゃん……。……ん」



まるで自分自身に言って聞かせるように、イツキは、小さな小さな声で、そう呟く。
笠原にもう一度抱かれてみたい、などという思いは、心の片隅の最奥にすら、あるはずもないのだけれど。






posted by 白黒ぼたん at 22:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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