2018年09月07日

選択肢







ふわふわと夜道を歩いていて声を掛けられる事は、まあ、よくある事。
後ろから『…一人?……どこか行こうか?』と言われ、イツキは結構です、という風に手を挙げ、少し、距離を取る。


男の足元は品の良い皮靴。スーツには綺麗なセンタープレスが入り、ただの酔っ払いではない風情。
ふと、顔を上げると、それは……見知った顔だった。





「………か……」


カサハラ、と言ってしまいそうになり、慌てて口を噤む。
お互い、どこまでお互いの事を知っているのか、もう訳が解らなくなっていたが…、どうしたって、すべてが茶番なのは明白だった。


あれだけ警戒していたのに。
ほんの少し、気が緩んだだけなのに。





「…一人で出歩くの、珍しいね。今日はボディーガードはいないのかな?」
「………何の事ですか?……俺、関係ないんで……」
「もういいよ、そういうの。知らない仲じゃ、ないでしょ?」


あくまでも他人の振りをしようとするイツキに、笠原は、詰め寄る。
こんな時に限ってタクシーは中々来ず、イツキの後ろに並ぶ人もいない。
イツキは顔を背け、その場から立ち去ろうとするが……、笠原が、その腕を掴む。



「ちょっと、お話し、しましょうよ」
「……しません。……手、離してください…」
「…話し、だけだよ?……それとも、目隠しして、強引に連れ去られたい?」


腕を掴んだまま笠原はニヤリと笑い、タクシーロータリーの向こうに視線をやる。
そこには、窓にフィルムの貼られた黒いワゴン車が停められていた。




イツキに、あまり、選択肢は無いようだった。





posted by 白黒ぼたん at 21:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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