2018年09月12日

脱兎








勿論、イツキも…確かめたくないと言えば、嘘になる。
最初に感じた感覚。言葉には出来ないもの。

多分、目隠しをされ尋常ではない状況だったことで、特に強く、そう感じてしまったのだとは…思うのだけど……。

素直に。普通に。
この男に抱かれたら…、どうなるのか…、少し、ほんの少しだけ興味はあった。
そう思うと、身体の芯が、疼く。


カップの上から重ねられた笠原の手が、イツキの指を絡めとる。


「……ね?」


ニコリと笑ってそうゴリ押しされると、つい…、……こくんと頷きそうになってしまった。












「……ば……」
「ば?」

イツキが口を開く。
けれど言葉を続けようとするも、喉の奥ひりつき声にならない。
あと数秒それが続けば、業を煮やした笠原が、強引に腕を引くところだった。

イツキは一度口を閉じ、ごくんと唾を飲み込む。
そして、急に思い出したように、
また、火傷するほど熱いものに触ったかのように、手を、笠原の絡んだ指から引き剥がす。


「ばかじゃないですか? 俺がそんなの、乗る訳ないじゃん!
俺は、…マサヤの、…だし!
マサヤとの方が、相性、いいに決まってるじゃん!
あなたとなんか…ぜんぜん…、……全然だったもん!」



文章が多少おかしいのは、頭の中が混乱しているためだろう。
始めて告白された中学生のように耳まで赤くし、後は勢い、立ち上がる。
笠原が呆気に取られている間に、イツキは踵を返し、脱兎のごとく店を出て行く。


イツキにしては、それは珍しく、俊敏な動きだった。






posted by 白黒ぼたん at 21:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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