2019年01月05日
小話「帳消し・1」
『……悪かったな』
と言えば、全てが帳消しになる訳ではないと、イツキは常々思っていた。
事務所に寄って、そのまま部屋に帰るのかと思っていたが、
黒川は険しい顔で、何も言わず、別の道へと歩き出す。
イツキは、何か食べに行くのだろうか…と、のんびり構えていたのだけど
向かった先は、裏の路地にある、古びたラブホテルだった。
ただセックスをするのが目的なら、歩いて同じ距離にマンションがあるのに
わざわざ、こんな場所を選ぶ時は理由がある。
……酷く泣き叫ぶような目に遭ったり、何かで、あちこちを汚してしまったり……
そんな普通ではない行為をする時に、よく、連れて来られるのだ。
イツキは一瞬ためらい、止めようよ、という風に唇を尖らせ首を左右に振ってみせるのだが、黒川は一瞥もくれずに奥へと進む。
部屋の鍵を受け取り、扉の前ではイツキの腕を乱暴に引き、中へと入れる。
「…さっさと、脱げ」
ベッドの脇に立ち、ネクタイを解きながら、黒川はイツキにそう言う。
「………別に、………いいけどさ。……何?……どうかしたの?」
「うるさい」
半ば諦め、溜息まじりにイツキは呟き、シャツのボタンを外し始める。
黒川は、それも待てないという風に、イツキをベッドに突き飛ばした。
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