2019年01月29日

記憶の澱・5







「……リョーコさんと、マサヤは…、……恋人同士、……だったのかな……」




今更のようにイツキは呟いてみる。
あの頃は自分の事で精一杯で、他の周りの状況は、あやふやでおぼろげだ。
リョーコが部屋の鍵を持っていた事や、黒川への親し気な口ぶりから、多分、深い関係だったことは間違いないけれど
実際、黒川が女性と付き合っていた、となると…、……具体的な想像が出来ない。


もっとも、黒川とていい歳の男なのだし、イツキと出会う以前に、女がいても不思議はない。
そして、そのどれもが長くは続かなかったのだろうと、思う。




「………だよね。………マサヤ、意地悪だもん……」


イツキはそう言って、一人で、クスクス笑った。












意地悪で身勝手で、イツキをモノのように扱っていた黒川は
ごくごく稀に、ふいに、気まぐれのように、優しい顔を見せた。
自分が仕向けた「酷い仕事」の後、心も身体も傷つき、憔悴しきりベッドに横になるイツキに

そっと、手を、伸ばしたりする。


冷静に考えてみれば、そんなもの、与えた苦痛に見合うだけの優しさには程遠いのだけど

うっかり、心を許しそうになる。








『………あれでも、黒川は、キミの事、好きなのよ』
『…そうとは、思えないよ。……マサヤは俺のことなんて、ただの商売道具としか思ってないんだよ……』
『…でも、自分の事、名前で呼ばせているのって…、……キミだけよ?』




posted by 白黒ぼたん at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/185459316
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック