2019年01月30日
記憶の澱・6
『……だったら、もうちょっと…、………違うやり方があると…、……思う…』
当時のイツキは、中学三年生。
まだ、「愛して欲しい」や、「優しくして欲しい」などという言葉を知らない。
イツキはソファの上で膝を抱えて座り、つい数時間前に受けた暴行を…思い出さないようにしながら、そう零す。
リョーコは隣に座り、イツキをいたわる様に、肩を抱く。
一体どんな言葉を掛けてやれば、この可哀想な子供を慰めてやれるのかと、リョーコは思う。
『………これは内緒の話なのだけど…。……あの人ね、キミを助ける時に…
……ほら、お金の話をしに、相手方に乗り込んだ時……、
向こうで、頭を下げて、頼み込んだらしいわ、全部、帳消しにしてくれって…。
あの男がよ?
……前に一緒に飲んだ時に、怒りながら言ってたわ。……血迷ったって、自分でも呆れるって…。……ふふ』
黒川はイツキを手慰みの玩具として気に入っていたが、父親の借金や、対抗する組織との軋轢、それらのリスクを負ってまで、イツキを助けるつもりは無かった。
……無かったのだが、……助けてしまった。
どうしてかと問われれば、イツキにはそれだけの商品価値があるのだと、そう内外に示すしかなかった。
『……素直じゃないのね。
……キミに優しくするのは、……あの人のプライドが、…許さないのよ』
それを聞いたからと言って、イツキが黒川を受け入れ、不幸が和らぐ訳ではなかったが…
……多分、少しは、慰めになっていたのだろうと思う。
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