2019年02月01日

記憶の澱・7








夏を過ぎたあたりから、リョーコを見掛けなくなった。
一ノ宮に聞くと、体調を崩し、勤めていたクラブも止め療養しているのだと言う。
……他にも、黒川との関係や、どんな出来事があったのかなど聞きたかったのだが、一ノ宮も黒川に遠慮してか、あまりはっきりした事は教えてくれなかった。


『……特に何かあって喧嘩別れ、ではないようですよ。……まあ、社長も…ああいう方ですからね、……難しいのでしょう』


黒川と一緒に仕事をしている一ノ宮は、部下というよりも友人といった感じで、黒川が唯一気を許している男だった。
物腰穏やかに、静かに笑みを浮かべる。およそこの界隈の人間には見えない一ノ宮を、イツキは好きだった。


『……腕は?……痛みますか?』
『……ううん。……平気』


無意識のうちに腕をさすっていたイツキを、一ノ宮は心配する。
昨夜の「仕事」では無理な体勢を取らされ、振り回した腕を掴まれ、激しく引かれ、少々捻ったようだった。

一ノ宮は甘いコーヒーを淹れる。イツキは痛くない方の手でそれを受け取る。




『……一ノ宮さんは、……マサヤのこと、……どうなの?………ああいう人でしょ?』
『…はは。……まあ、古い付き合いですからね、…あれでも……』


一ノ宮も自分のコーヒーを啜る。話ながらまるで、男女の話のようだと、小さく笑う。


『……ごく、稀に、人を気遣う時もあるのですよ』






そんな冗談を言った。







posted by 白黒ぼたん at 22:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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