2019年02月06日

記憶の澱・9








リョーコの詳細について、勿論、イツキは黒川に質問したのだけど
黒川は面倒臭そうに、軽くあしらうだけだった。
進行の早いガンで、半年ぐらいで散る様に亡くなったのだと、一ノ宮が話してくれた。

まだ人の死に触れたことのないイツキは呆然とし、どうしてよいものか、途方に暮れる。
それでも、『仕事』は休む暇もなく、理由も解らず、ただ何日も続けて涙を零していたりした。




黒川はもう本当に、リョーコの事を何とも思っていなかったのだろうか。






冬のある日。
客に抱かれたイツキは、真夜中になって、黒川の待つ部屋に帰る。
ちゃんと後始末が出来なかったのか、衣服は乱れ、髪の毛は濡れたままだった。
おそらく、一分一秒とて、その場にいたくはなかったのだろう。
用意された車に飛び乗り、冷えた身体をカタカタと揺らしながら、ようやく部屋に辿り着いたのだ。

黒川は相変わらず不機嫌そうに、ソファに座り煙草を吹かし、汚れたイツキを一瞥する。




『……そんな臭いナリのまま、帰ってくるなよ』
『…………ごめんなさい…』




黒川はそう言い、イツキは謝る。




それでも、ソファの自分の隣りにイツキを座らせ、イツキの震えが止まるまで肩を抱く。





それが黒川の、その時の精一杯の優しさだったのだと






今のイツキには、解った。






posted by 白黒ぼたん at 20:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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