2019年02月09日

記憶の澱・最終話








「……リョーコと付き合っていたのは昔の話だ。お前が知る頃には、もう、とうに別れていて……」



イツキに請われるまま、黒川は、珍しく素直に昔話に興じる。
イツキは黒川の手の平の下、眠そうな瞼をぱちぱちとやって、声に耳をそばだてる。
こうやって黒川が自分自身のことを話すのは、酷く稀で、それだけイツキに対して、きちんと向き合う様になったのだと

………きっとリョーコがいれば、嬉しそうに微笑む。





「……まあ、別に、将来を約束した仲でもないし、別れたのも、何があって…という、訳でも無い。
元々、ウチで持っていたクラブの女で、最終的には何店舗か、任せていて…
……仕事仲間、……腐れ縁、……戦友、……ふふ、恋人だなんてイイ物じゃなかっただろう……

指輪は…、そうだな、誕生石が付いたやつを、やったかな……、安物だがな……」


「……リョーコさん、ずっと、持ってたよ……」
「………ふぅん」








黒川はビールを飲み、一息ついて、話はそこでお終いだった。

記憶の底に溜まった澱は、ふわりと浮かび、また沈む。


それは、今の二人には、もう必要のないものだった。





posted by 白黒ぼたん at 07:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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