2019年03月01日
夜逃げ・7
『……イツキちゃん、今から会えないかな?……話し、しようよ』
『………えーと…、ダメです……』
『家、近くだよね?……ちょっとだけでも』
『……俺、今、……離れたトコにいるんです…』
食い下がるミツオに、上手な嘘が付けないイツキは、ざっくり、かいつまんで状況を説明する。
身辺で少々トラブルが起きている事。それによって、この場所を離れている事。
本当に、ミツオの美容院で働くことを楽しみにしていたのだけれど、この先の予定が立たない以上、それはお断りした方が良いという事。
『………ごめんなさい…』
『……そっ……か……』
ミツオはイツキの状況のすべてを知っている訳ではなかったが、それでも特殊な事情があることは承知していた。
あの歳で、ヤクザまがいの男の恋人で、美人局のようなことをさせられて、男相手に身体を売って…、と、理解は当たらずといえども遠からず。
『…お店に、迷惑掛けちゃいますね』
『ああ、いや、まあ…、オープニングは人数揃えてるから、多少のカバーは出来るよ、…心配しないで。……それよりもイツキちゃんだよ、この先はどうするの?……ずっと、戻れないの?』
『……んー、まだ全然…解らないです。……ふふ、誰も知らない町で、仕事見つけて、一人で生きていくかも』
冗談めかして、イツキが笑う。
けれど、それは、まるで冗談にもなっていなかった。
電話の向こうで、イツキが不安に揺らいでいる様子が、ミツオにも解った。
『……イツキちゃん。……どうにも、本当にどうにもならない時の、保険みたいな話なんだけど……』
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たまにドジな事をしながら生き生きと働いたんだろうな。
イツキは、ずっとこのしがらみの中で生きて行かなきゃいけないのですかね。辛い…
黒川さん早く解決してくださーい!
それはそれで、黒川さん、心配ですが…
しがらみだらけのイツキですが、案外どこでも頑張れる子です。大丈夫です。