2019年03月06日

夜逃げ・9







一ノ宮は少し離れたテーブル席に座っていたため、黒川と高見沢の会話は聞こえなかった。
何か、物騒な事にならないかと様子を伺うと、それは杞憂で、お互い笑顔など浮かべ普通に話をしているようだった。

どだい、今更イツキを出せなどと言うのは、可笑しな話なのだ。
難癖を付け、無理な交渉を持ち込んでいると、高見沢にも解っているだろう。



「………ウチとしてもあまりオオゴトにしたくないんですわ。……何で黒川さんが、あんな子供を庇うのか解りませんな。……ほんなに、……エエんですかねぇ」


背が低くでっぷりとした体形の高見沢は、芋虫のような指で酒のグラスを持ち、前のめりになってニヤリと笑う。
歳はおそらく、黒川と同じぐらい。
……イツキが、嫌うタイプだと、黒川は気付かれないように小さく鼻で笑う。


「高見沢さん。俺も、大事にする気はないし、長引かせる気もない。
…話はとうに先代との間で済んでいる。…どう因縁つけられても、アレは、俺のでね…」

「はぁ、大した入れ込みようじゃけぇ、……そりゃぁ、ますます……」

「欲しいモンがあるからって、駄々をこれられちゃぁ、困る」



黒川は煙草を吹かしながら、半ば面倒臭そうに、そう言う。
買い被りすぎだ。「イツキ」は、そういいモンじゃない…と思いながらも、勿論よそにやる気はない。すでに良い、悪いの問題ではない。



「…じゃけぇ、……岡部の親父との借用書が………」





posted by 白黒ぼたん at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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