2019年03月10日

夜逃げ・11







一ノ宮は少し離れた席に座り、黒川と高見沢の様子を伺っていた。
岡部の件をぶり返す事は先代の意向に背く行為なのだと、その方向で交渉を進めると、事前に話はしていた。
最初はお互い険しい顔で、一触即発といった緊張感もあったのだが…次第に場は和み
終いには笑い声をあげ、高見沢が親し気に黒川の肩をばんばんと叩く場面もあった。






「行くぞ」


やがて黒川が席を立ち、一ノ宮に声を掛け、店を出る。
建物を出てしばらく繁華街を歩き、口直しにと、騒がしい大衆居酒屋に入る。
スーツを着込んだこの二人は眼光こそ厳しいものの、大人しくしていれば意外と、普通のサラリーマンの群れに馴染んでしまう。
案外こんな場所の方が、密談には向いているようだ。




「……どうでしたか、高見沢さんは…」
「は。カワイイもんだ。……まだ、先代の影響力は強いようだな…」
「まあ、元々、済んだ話ですからね。…この程度で引き下がってくれて、良かったですね」
「…ふん」


グラスの冷や酒を飲みながら、ようやく一息つく。
……適当に脅して、宥めて、持ち上げて……、と、交渉の常套手段だったが、好きなやり方では無かったのか、黒川は少し不満気だった。

『イツキは俺ものだ、もう、誰にもやらん』と、真っ向切って、喧嘩をする。

……訳にもいかないだろう、と黒川は自問自答し、小さく笑う。


「…イツキも悪目立ちし過ぎだな。笠原といい、高見沢といい…、面倒な輩が寄ってくる…」
「……それはあなたが、中途半端な立場のまま、イツキくんを連れ回しているからでしょう」



騒がしい店内で一ノ宮の小言は聞こえなかったのか、黒川は軽く顔を上げただけで、特に返事はしなかった。



「……とにかく。……もう少しコトが落ち着くまで、イツキは外にやる…」





posted by 白黒ぼたん at 13:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
そうだそうだ!一ノ宮さんいいぞ〜
でも、いくら言っても、黒川さんには、響かない…
一ノ宮さん、好きなんです!
Posted by はるりん at 2019年03月11日 06:29
本当、一ノ宮さんには
もっとガツンと言って欲しい。
黒川、反省しろ!
Posted by ぼたん at 2019年03月12日 22:48
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