2019年03月11日
夜逃げ・12
「………俺、まだ、帰れないの?」
「……ああ」
真夜中。
イツキと黒川は電話で話す。
イツキは昼間から何度か電話を掛けていたのだが、黒川は一向に出ず、
…高見沢との会合が終わり、…少々、酒を飲んだ後に、ようやく、イツキに連絡を入れる。
黒川も忙しいのだ。この件ばかりに構ってはいられない。
けれど、イツキは、暇を持て余し過ぎている。イライラは限界に近く、すでに冷静な対応も取れないほどだった。
「光州会の人と話し、したんでしょ?……何?……俺、……そっちで働かなきゃダメって事?」
「……いや、それは無くなったんだが……」
「じゃあ、なんで戻れないの?……俺、こんなトコ、もう、やだ…、……一人で…!」
余程、腹に据えかねているのだろう。イツキはヒステリックに叫ぶも
それは黒川には耳障りなだけだった。
「……騒ぐな。……とりあえず、光州会の言い分は突っぱねたが、諦めた訳じゃないだろう。…熱が冷めるまで、もう少し……」
「もう少し?……もう少しって、どれくらいさ!?」
「……ウルサイ!」
電話というものは、厄介なもので
お互いの表情も、空気も何も解らず。
もし、目の前にいるのなら、とにかく抱き締めてやることが出来ても
それも叶わず。黙ってしまえば、それはもう、何もないのと同じになってしまう。
「………じゃ、俺。……もう、帰んない。………こっちで、仕事して、……住む」
「ああ。出来るなら、そうしていろ。……ああ、前みたいな、ウリはするなよ」
「……………バカ!」
イツキはそう叫んで、電話を切った。
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