2019年03月12日

夜逃げ・13








黒川にしてみれば、充分、してやったというのが感想だった。
イツキを安全な場所に隠し、高見沢と面倒な交渉を済ませ、さらに安全のため、距離を取らせる。
……手元に置いておけないのは、……多少の不自由はあるが、……まあ、ほとぼりが冷めるまでは仕方がない。
また誘拐だレイプだ、「仕事」に付き合わせるだ、……その都度イツキの様子を伺い、気をもむのも……厄介だろう。

イツキだって、それを望んではいない。






2,3日、連絡を取るのを忘れていたかも知れない。
イツキからの着信が無いものだから、うっかりしていた。
滞在していたホテルから、チェックアウトと支払いの連絡が来る。
まさか本気で、地方に住む気か。夜逃げ、からの、家出かよ…と、黒川は少し憂慮する。





「……イツキくん。その近くで仕事を見付けたそうですよ。住む場所も紹介されたそうです。……5月から働く予定だった美容室の、関連の、小さな工場らしいです」





見兼ねて、一ノ宮が口を出す。
黒川は、なぜ一ノ宮がそれを知っているのかと、いぶかしげに見返す。




「……イツキくんから連絡を貰いました。…あなたには、放って置かれたから、もう知らない…と、怒っている様子でしたよ」
「……あの馬鹿。……それ位の我慢も出来ないのかよ」
「…十分に話をしましたか?…心細い思いをさせたのでしょう?…せめて直接会って、説明してあげれば良かったのに……」

「はいはいはい」




一ノ宮の小言ももう聞き飽きた、という風に黒川は適当に返事をして
手を、ひらひらと振るのだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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