2019年03月13日

夜逃げ・最終話







「……すみません。お世話になります。岡部一樹です」
「ああ。ミツオくんから聞いてるよ。ウチも今、人手が足りなくてね、助かるよ。部屋、狭いけど大丈夫かな?」
「…ああ、もう、ぜんぜん。……ありがとうございます」






売り言葉に買い言葉。
あまりに黒川の態度がつれないものだから、つい、イツキは啖呵を切り、ホテルを飛び出してしまった。
ミツオはすぐに動き、仕事先の社長に連絡をし、段取りを付けてくれた。




「在庫置き場に使ってた部屋でね、向こうの部屋は荷物いっぱいで使えないけど、こっちは平気。
たまに従業員が寝泊まりするんで、一通り揃ってるよ。冷蔵庫とレンジとテレビ…、ああ、布団も使っていいからね」
「…はい」
「うん。会社は明日、案内するよ。今日はゆっくり休んでね」
「…はい」




会ったこともない見ず知らずの子供を雇うなど、普通ではありえないだろうが
そこは、ミツオと社長の信頼関係があっての事か、あまり深い詮索もせずに、イツキを受け入れてくれた。
ニコニコと笑う優し気な、初老の社長。
イツキはありがとうございますと、深々と頭を下げた。








忙しく状況が変わり、目が回る。

とりあえず、一ノ宮には連絡を入れた。
会社の名前も住所も教えたのだし、何かあれば、……何か、するだろう。……あの男が迎えに来たっていい。

現金も持っているし、銀行に多少の預金もある。しばらく生活するのに不足はない。
着替えや身の回りのものは、買い足せばいい。どうにか、生きていけると…思う。





「………ん。………大丈夫、大丈夫…」




イツキは自分自身に言い聞かせるように、そう呟くのだった。




posted by 白黒ぼたん at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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