2019年03月17日
ミカちゃん
右も左もわからないまま、新しい場所で、どうにかイツキは頑張っていた。
家のものも大分揃い、会社では歓迎会まで開いてもらい、自分でも馴染んで来たと思う。
数えてみれば、黒川に突然連れ出されてから、一か月が過ぎていた。
あまり、考えないようにしていたのだけど。
……考えると、未だに、胸が苦しくなってしまうのだけど。
それでも新しい暮らしは意外と楽しいものだと気付いた。
「イツキくん、今日のお弁当、どっちにする?豚の生姜焼きか唐揚げ。
あ、でもニコニコ堂の生姜焼き、ちょっとしょっぱいんだよねー。アタシ押しは唐揚げかな!」
「じゃあ、ミカさんのお勧めで」
「よし。ポテトサラダも付けちゃおう。…やだ、ダイエットは明日からにするー」
歳が近いミカとは気軽に話せるようになった。
元々イツキは、このタイプの女性は嫌いではない。
きゃっきゃと明るく華やかで、その場を盛り上げてくれる。
昼休みには一緒に、近くの弁当屋に買い物に行くようになった。
「イツキくん、あのアパートに一人暮らしなんでしょ?ご飯、どうしてるの?」
「……んー。適当です。駅前で何か食べるか、コンビニで買い物するとか…」
「へー。大変―。アタシ、無理だなー。今は実家暮らしだしー」
「ご飯は何とかなるんですけど…、お風呂が……、……狭いのが嫌で……」
アパートには一応、風呂は付いていたが
浴槽は、膝を抱えて入るのがやっとのほどの小ささだった。
安いラブホテルでさえ、こんな風呂には入ったことはないと、イツキは毎晩シャワーだけで過ごしていた。
「あー、知ってる。あそこ、狭いよねー。
あ、じゃあさ、今度、日帰り温泉行こうよ。近くにあるんだよ、岩盤浴もあってね…」
ミカとお喋りして過ごす時間は、結構、楽しいものだった。
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